色盲の少年、異世界にて色彩を求める

ミチシルベ

序章 色彩を求める

モノローグ

 世界は白と黒で構成されてる。


 僕は世間的には色盲と呼ばれる状態で生まれてきた。色が見えにくい色弱と呼ばれる人は、日本では20人に1人はいるさほど珍しく無い症状だ。


 しかし、僕のような全ての色が見えない全色盲は極めて稀な病気であるとされ、現代の医療では治療が難しいとも言われている。


 そんな僕を皆んなは、可哀想だとか憐れみの感情を向けてくるけど、僕はこの色を認識できない目を不幸の象徴だと思っていない。


 勿論、苦労する事も多くあったが、日常生活は充分真っ当できるし、そもそも自分よりも大変な障害を持ってる人だっているんだ。


 それでも時々、僕の見てる世界と周りの人の世界がどうしてもズレて感じる瞬間があって、その時はどうしようもなくこのモノクロ世界が憎らしく感じる。皆んなが見てる世界はどんなのだろうと、無意識に色を切望する。


 食べものの彩り、自然の豊かさ、服のデザイン、絵画の素晴らしさ、どれも僕には知らないものだ。いつか、いつかそれを感じてみたいと心のどこかでずっと思ってたのだと、今更になって気づいた。


 でも、まあそれもここまでのようだ。


 僕が今感じてるのは走馬灯のようなもの、目の前に迫るトラックを前にして短い15年の人生を振り返る。


 普段ならしないミスだ、信号の色が分からない僕は必ず1人では信号を渡らないようにしてたし、仮に渡る時も慎重に渡るようにしていた。


 でも今日は偶々自分の体質のせいで、うまくいかない事が続いてしまって疲れていた。

 色々と1日を振り返りながらぼんやりと歩いて事もあって、僕はおそらく赤信号を渡ってしまったのだろう。


 トラックの運転手には悪い事をしたな、僕が色を識別できないばかりに人を轢く体験をさせてしまった。


 僕は死ぬのか。


 ああ、最後に赤いリンゴ、食べて見たかったな……

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