第19話
「ああ……そうだ。私もお詫びの品を用意してたんだよ。ちょっと待ってて、すぐに持ってくるよ」
そして一人取り残されて、思う。
汗の匂いって……不快なものだけじゃないんだな……とても健康的でスポーティーで……って僕は何を考えているんだ。気持ち悪すぎるぞ僕。
「おまたせ」しばらくして、
そんなことを言われても、今の僕の耳にはあまり入っていない。こんな美少女を目の前にして平静を保っていられるほど、僕の精神は大人じゃない。
心臓がうるさくて、呼吸も苦しくなってくる。これが恋か……?
「……?」そんな僕を見て、
「え……いや、そうじゃなくて……」しまった。見惚れている場合じゃない。攻略本のとおりに動かなければ。「ありがとう……大切に使うよ……」
「大切に……ああ、うん……」
しまった……入浴剤は大切に使うものではない。使い捨てのものなんだから、大切も何もない。パニックになって変なことを言ってしまった。攻略本に書いてないことを言ってしまった。
「そ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ?」気を使わせてしまった。「ほら……私たち同学年だし……もっとリラックスしても大丈夫だよ」
まずい……それは攻略本にないセリフだ。僕が挙動不審な動きをしてるから、変なセリフが出てしまった。
攻略本にないセリフに対して、どう返答したらいいかわからない。自分のコミュニケーション能力のなさを恨むぞこの野郎。
僕が黙っていると、
「とりあえず……これ、ありがとうね」
そう言って、
そんな
◆
選択肢A 「家まで送るよ」
選択肢B 「うん。さようなら」
選択肢C 「家まで送ってよ」
◆
選択肢Cはよくわからんな……なんで僕が家まで送ってもらう道理があるんだ。大抵の場合、男性が女性を家まで送るわけであって……って、最近のジェンダーレスの流れを考えると、別におかしい選択肢ではないのか?
ちなみに、ここでの選択肢で好感度は変化しない。その後の展開が変わって、そこでは好感度が変化する。つまりシナリオ上の分岐選択肢だ。
一番好感度が上がりやすいルートは――
「い……家まで送るよ」
この選択肢を選ぶことにより帰宅イベントが発生し、そこで好感度を上げることができる。うまい選択肢を選べたら、の話だけれど。
「え……いいよ、そんなの」
「時間取らせちゃったし……あの、えーっと……」なんだっけ……? なんて言うんだっけ? 悩んだ末に、「ボディ……その……が……」
「ボディ?」
マズい。身体目当てみたいになってる。そう思われるのは非常にマズい。僕の高校生活が終わってしまう。僕自身が自殺してしまう。
しかし、僕のコミュニケーション能力のなさを、
「ああ……ボディガードしてくれるってこと……?」
「……そう。それ……」できる限り、攻略本に寄せていく。「僕が言っても……あんまり説得力ないかもしれないけど……」
「そんなことはないけれど……」
あるだろう。バスケットボールに当たってKO食らった男だぞ。頼りないことは自分でも自覚している。
「じゃあ……えーっと……せっかくだからお願いしようかな?」
そんなことを
この時点で
ただ単に、友達と一緒に帰るのは不自然じゃない、くらいのノリである。
ここから彼女と仲良くなれるかどうかは、僕次第だ。
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