第15話

 目的は決まった。それは誰も自殺させないこと。雪月風花の4人を救うこと。


 そのために何をすればいいのか、引き続き莉杏りあんを話し合っていた。


「私は風音かざねさんと同じクラスだから……風音かざねさんと仲良くなって、見張ることはできると思う」


 じゃあ風音かざねさんは大丈夫だな。なんといっても莉杏りあんが見張ってくれるのだから。


 それから、莉杏りあんは続ける。


花咲はなさきさんは……どうだろう。面識がないんだけど……どんな人かもわかんない」


 そりゃそうだろうな。花咲はなさきさんは僕たちの1つ後輩だ。つまり今年入学してきたばかり。莉杏りあんが知らないのも無理はない。


月影つきかげさんは?」僕は聞いてみる。「莉杏りあんと気が合いそうだけど」

「ああ……バスケ部のエースさん? どうだろう……会話したことないし……それにバスケ部は……」

「バスケ部がどうかしたの?」

「ちょっとね……部長さんといろいろあって……」


 バスケ部の部長……僕がバスケットボールに当たって倒れたときに、的確な指示を出してくれた人か。

 ……あれほどの人物と莉杏りあんほどの人間が揉め事? なんだか想像できないな……


「別にケンカしたとかじゃないよ」莉杏りあんは弁明する。「ただ……ちょっと気まずくなっただけさ」


 ふむ……莉杏りあんにもいろいろあるんだな。まぁここは深く追求するのはやめておこう。


雪海ゆきみさんには避けられてるからなぁ……どうしたものか」

雪海ゆきみさんに?」

「うん。別に仲が悪いわけじゃないよ? でも、避けられてるのは感じてる。だけど、どうしようもないことだから」


 ……思っている以上に、莉杏りあんの人間関係は複雑なようだった。幼馴染の意外な一面を見た気分だった。


「ふむ……」莉杏りあんは天井を見上げて、「とりあえず私にできることは、風音かざねさんと仲良くなることかな」

「うん。頼んだ」

「悪いねぇ……あんまり力になれなくて」


 そんなことはない。莉杏りあんと会話できただけで、僕はすでに心の平穏を取り戻している。それに、覚悟だって決まった。誰も自殺させないという目的も決まった。

 僕1人だったら、この結論に至るまで、もう少し時間がかかっていただろう。最終的な結論は同じでも、迷いながらの結論になっただろう。


 やはり莉杏りあんと話すと落ち着く。こんな幼馴染がいて良かった。


 ……そういえば攻略本を見る限り、莉杏りあんは攻略対象じゃないらしい。莉杏りあんルートがない、という言い方のほうがギャルゲーっぽいだろうか。

 まぁ僕と莉杏りあんは、恋人というより兄弟みたいなものだからな。


 さて、目的は決まった。あとはどうやって目的を達成するか考えるだけだ。莉杏りあんには風音かざねさんと仲良くなってもらうとして、僕はどうしよう。


 僕の行動は攻略本を見ながら決めたい。だから、莉杏りあんが帰ってから考えよう。

 

 ということで、莉杏りあんには1つ質問をしてみる。


莉杏りあん

「何? 愛の告白?」


 そんなわけないだろ。相変わらず冗談が好きなやつだ。

 

「もしも……未来が決まってるとしたら、どうする?」

「……」僕が真剣に聞いたから、莉杏りあんも真剣に考えてくれた。「それは……キミが夢の内容が覆せないとしたら、ってこと?」

「え……ああ……」正確には違うけれど、「似たようなものかな」

「ふむ……どうだろう……私は人生は不確定要素があるから楽しいと思うのだけれど……」


 不確定要素……僕とは正反対だな。僕は不確定要素が怖くて、人生を楽しめないのだから。


 莉杏りあんはしばらく悩んでから、


「私は……そうだね。私の人生は私が決めたいと思う。未来が決まっている人生は、楽しめないと思う」


 あくまでも私の意見だけれどね、と莉杏りあんは続ける。


「未来が決まっているほうが良い、という考えも否定はしないよ。そういう人もいるだろうし、キミはそうだろうし」


 見透かされているな。さすが幼馴染。莉杏りあんは僕の浅はかな思考なんて、大抵はお見通しである。


「まぁ、キミが何に悩んでるのかは知らないけどさ」莉杏りあんは明るく言う。「なんかあったら、できる限り協力するからさ。心配するなとは言えないけれど……ま、安心しなって」


 心配するなとは言えないけれど、安心しろ……なんだか矛盾しているようなきがするけれど……まぁいいや。莉杏りあんがそういうのなら、多少は安心できる。


 本当に……こいつが幼馴染で良かったな……

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