第7話
そのまま、午後の時間が過ぎ去った。授業なんてまったく頭に入ってこない。「
あの攻略本が本物なのか、それだけが今の僕にとっての大問題だった。
もし本物なら……それは僕の人生を大きく変えるものだ。もしもこの世界がギャルゲーなら、それは僕の本領なのだ。
「……」
しかし、まだ確定したわけじゃない。あの攻略本と同じことが起きたのは、
「……」
検証してみるか……あの攻略本が本物かどうか。
本来なら今すぐにでも帰って攻略本を詳しく読み込みたいところだ。しかし、もしもこれがイタズラだった場合、すぐに帰ってやるのも面白くない。「あいつ攻略本なんて信じてるぜ」とか言って笑われるのも嫌だ。
ということで検証だ。攻略本の力が本物か否か。
「……なら……体育館か……」
誰にも聞こえないようにつぶやいて、僕は席を立つ。そして放課後の校舎を歩いて、体育館の扉の前に移動する。移動している最中、僕は少しだけ覚えている攻略本の内容を思い出していた。
◆
放課後。体育館の扉を開けると、その瞬間バスケットボールが飛んでくる。
選択肢A 避ける
選択肢B 受け止める
選択肢C 避けられず直撃
◆
ゲームの世界だったら時が止まるタイプの選択肢だ。あるいは制限時間付きの選択肢だ。
この選択肢を選んだあとに、とあるヒロインと出会うことになる。
とにかく、ここで好感度が一番上がる選択肢は『B 受け止める』であるらしい。
しかし、運動音痴の僕が飛んできたバスケットボールを受け止めるなんてことができるだろうか? 明確に選択肢が出て、時間が止まるわけじゃないだろうし……
迷った結果、僕は選択肢Aを選ぶことにした。ボールが飛んでくることは、すでにわかっている。それなら、避けるくらいはできるだろう。
そう決意して、体育館の扉を開こうと手を伸ばす。
「待てよ……」
……開ける前からボールを避けているのは不自然だろうか? それは未来予知になってしまうし……控えたほうがいいかもしれない。
少しだけ迷ってから、扉を開けてボールを確認してから避けることにした。ボールが来ることはわかっているのだから、さすがに避けられるだろう。
そう思って扉を開ける。
その瞬間――
「……っ!」
頭に強い衝撃が走った。そのままふっとばされて、僕は宙を舞った。アニメみたいなふっとばされ方だった。
……ボールが来ることはわかっていたのに、反応すらできなかった……ボールは僕の頭に直撃した。もう少し運動神経を鍛えたほうが良いかもしれない……
そんなことを思いながら、僕は地面に倒れた。硬いアスファルトの衝撃が背中に伝わった。
そして、
「……!」誰かが息を呑んだ音が聞こえた。「ご、ごめんなさい! だだだ、だ、大丈夫!?」
大慌てで僕の顔を覗き込んできたのが、ここで出会う予定だったヒロインの一人である。
青い空を背景に、彼女は顔を真っ青にしていた。本気で僕の心配をしてくれているのが伝わってきて、彼女の優しい性格を実感した。
背は高め。健康的な汗と肉体。とてもスポーティで似合っているショートカット。長い手足と、大きめの胸。彼女のために用意されたのではないかというほどよく似合っているユニフォーム。
「ね、ねぇ……意識はある? ここがどこか、わかる?」
彼女は震える声で僕の安否確認をする。おそらく僕が当たってしまったのは、彼女のボールだったのだろう。だから、彼女は責任を感じているのだ。
……申し訳ないことをしたな……避ける手段はあったというのに……
「ここは……体育館の前、だよね……」
「うん……」僕が返事をすると、彼女は少しホッとした様子を見せた。「良かった……意識はあるみたいだね……」
僕が体を起こすと、なんだか女子バスケットボール部員たちに取り囲まれていた。皆僕の安否を心配して、練習を中断してくれたらしい。中には担架を持って来てくれている部員も見えた。
その中で部長らしき人物が僕に近づいて、
「意識ははっきりしてるね……」それから、部長は僕に頭を下げた。「申し訳ない。完全にこちらの安全管理が甘かった」
「い、いえ……僕がいきなり扉を開けたのが原因ですから……」
「いつ扉を開けられても、安全な状態にしておかなければならなかった」部長は後悔したように言ってから、「謝罪は後でさせてもらう。今はとにかく保健室に」
部長の言葉を聞いて、担架を持った部員が近寄ってくる。非常に統率の取れた動きで、この部長のカリスマ性がうかがえる。
って、そうじゃなくて。
「大丈夫です……担架なんて……保健室なら1人で行けますから……」
これ以上、彼女たちの練習時間を奪う訳にはいかない。それに、ただでさえ情けない姿を晒しているのに、さらに担架で運ばれるところなんて見られたくない。
「そうか……」部長は僕を見て、「意識はハッキリしているようだし……」
そして部長はしばらく悩んでから、
「
そう呼びかけた。すると、先程から真っ青な顔をしている人が返事をする。その人は、最初に僕に駆け寄って声をかけてくれた人だ。
「は、はい……!」
「彼を保健室まで」
「わかりました……!」
そんなこんなが、僕と
情けない出会いにもほどがある。
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