第3話
僕が女性に対して強気になれるのはゲームの中だけだ。そんな自分が情けないけれど、20年近く生きてきて、今さら性格を変えることも難しい。
どうせ自分は異性とも同性とも仲良くなることはないのだ。誰とも深く関わらずに、適当に人生を終えるのだ。
ということで、学校に行く。すでにクラス替えが済んでから一週間が経過している。
僕はいつもどおり窓際の席に、誰にも影響を与えず存在していた。春の陽気は心地よくて、教師の言葉はちょうどよい子守唄に聞こえる。何事もなく休み時間まで到達して、そろそろ授業も終わりだと安堵する。
そして男女共学の高校の休み時間といえば、恋バナである。他の高校で盛んなのかは知らないが、僕のいる高校では休み時間は色恋話が多い。
「この高校でトップクラスにかわいい女子といえば誰だ?」
前の席の男子2人が、そんな会話をしていた。
「やっぱり『雪月風花』の4人だろ」
「まぁそこが大本命だよな」
雪月風花とはなんだろう。四字熟語なのはわかるけれど……
僕はこの手の噂話には疎い。そしてあまり現実にも興味はない。だけれど、今は暇なので話の続きを盗み聞きしていた。
「『
「4人の名字の頭文字、および名前の漢字を連ねて『雪月風花』」
ありがたいことに説明してくれた。ゲームあるあるの説明だ。この男子高校生たちは二度と出番がないのだろう。
しかし……名字の頭文字および名前の漢字とはどういう意味だろう。4人の名字の頭文字をつなげると『雪月風花』になるのは理解したが、名前も?
「この4人には共通点がある」
「ああ。1つは絶世の美少女であるということ」
そうか……そんな美少女がこの学校にいたのか。リアルに興味がないから忘れていた。
「そして、名前が名字の1文字目、という共通点がある」
「『
すごい名前だな。ラノベかなんかでありそうな名前だ。
「この4人が同じ時代に、同じ高校に存在しているという奇跡。まさに彼女たちは『雪月風花』と呼ばれるために生まれてきたのだ」
それは違うと思うけれど。
「しかも
「なんとしてでも
そんな感じの会話を、2人は続けている。正直、僕も一緒に語り合いたい会話だが、そんな度胸はない。
リアルに興味が無いと言いつつ、なんだかんだ美少女には興味がある。僕が彼女たちとどうにかなれるなんて思ってはいないが、それでも夢を見てしまう。
これがギャルゲーの世界だったら、攻略しに行ったのに。さっき名前を聞いた『雪月風花』の4人は絶対に攻略対象なのに。
……まぁ彼女たちが攻略対象でも、僕が主人公でなければ意味がない。そして僕は主人公じゃない。
きっと主人公は僕の知らない場所にいて、僕の知らないところで彼女たちとの仲を深めていくのだろう。モブキャラである僕が入り込む余地はない。
そんなこんなしているうちに休み時間が終わる。そしてついでに授業も終わって、放課後となった。
そして、今度は隣のほうの席で女子たちが会話している。
「ちょっとかわいいからって、調子乗ってるよね」
「わかる。しかも良い人アピールがウザいんだよね」
「そんなんじゃ社会じゃ通用しないっての」
「雪月風花、なんて呼ばれて……恥ずかしくないのかな?」
「さぁね……美人様の考えることはわかんない」
……ふむ……美少女ゆえに嫉妬されることもあるんだな。それとも、本当に彼女らは調子に乗っているのだろうか。会話したことがないからわからない。
これ以降わかることもない。僕が美少女たちと会話をはじめるなんてことはありえないのだから。
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