第2話

 僕が人生の攻略本を拾う少し前のお話。


 春。高校2年生として迎える、はじめての春。


「必ずキミのことを幸せにしてみせる。キミは、僕のことだけを見ていればいい」


 自室のテレビ画面の中で、主人公がそんなことを言う。


「嬉しい……そう言ってくれるの、ずっと待ってた」


 彼女のセリフのあと、感動的な音楽が流れ始める。そしてエンドロールを鑑賞して、ゲームクリア。


 ギャルゲーは良い。今回のゲームを攻略して、やはりそう思うことができた。


「あ、クリアしたの? おめでとう」


 その声は現実の僕の部屋から聞こえてきたものだった。

 見ると、幼馴染の梨奈りな莉杏りあんが僕の布団の上から顔を出していた。


 彼女との関係は幼馴染というより、腐れ縁と言ったほうが良いかもしれない。

 幼稚園で同じクラスになって、小学校でも同じクラスになることが多かった。家も非常に近所で、気がついたら兄弟みたいな関係になっていたのが梨奈りな莉杏りあんである。

 

 第一印象は「お笑いコンビみたいな名前」である。梨奈りな莉杏りあん。両方下の名前に聞こえるし、リナリアンとかいうコンビは本当にいそうである。


 莉杏りあんはなぜか僕の部屋に入り浸ることが多いので、もはや僕は莉杏りあんが自室にいることに違和感を覚えていない。こうして莉杏りあんがいる部屋でギャルゲーができるくらいには、僕は莉杏りあんのことを信用している。


 莉杏りあんはギャルゲーに対して偏見を持っていない。ギャルゲーをゲームとして扱ってくれるのだ。


 そんな莉杏りあんに、僕は言う。


「今時珍しい」

「? 何が?」

「ギャルゲーを、ゲームとして扱ってくれる人」

「……ギャルゲーはゲームでしょ? それ以外にどう扱えと?」

「現実と混同して叩いてくる人がいる」

「ああ……そうなの?」


 そうなのである。「気持ち悪い」とか「男ってバカ」だのひどい言われ方をするときもあるのだ。


「僕はギャルゲーをゲームとして楽しんでる。現実の女性に、ギャルゲーのキャラクターと同じ立ち振る舞いは求めてない」

「ふーん」

「してくれるなら嬉しいけれど」

「素直だね」


 素直というより願望だ。別にギャルゲーと同じ立ち振る舞いは求めていないが、してくれるというのなら話は別である。


 ギャルゲーのキャラクターは、現実の人物と違って期待を裏切らない。僕を傷つけない。そして傷つくこともない。嘘の存在だとわかっているから、安心してこちらも嘘をつける。


「私もやってみようかなぁ……オススメとかある?」

「語るとなると長くなるけど」

「そっか……別にいいよ。どうぞ」


 ということで、オタク特有の早口で好きな作品の布教を始めたのであった。

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