第四十一話

◇◇◇宮地日葵


 意図的に隠された細道を藪をかき分けながら進むと、先ほどよりは随分マシな山道に変わりました。

 なんなんでしょう。あの道は。虫は多いし、汗ばんだ肌に当たる草木は鬱陶しいし。もうちょっとお手入れしておいて欲しいものです。


 少し開けた道は、道幅は広くなったものの人の通りが途絶えて久しいのか、やはり草木が伸びてきて道を狭めてしまっています。この道もさっきの道のように違和感が尽きません。ただ、村のある谷合に入ったのか、平坦になったのは歩きやすくて助かります。


 それにしても変な村ですね。人に入ってきてほしくないような意志を感じます。この道は人の意志で作られた以上、難題とはいえ解けないはずはありません。私がこの道を踏破してみましょう。


 さあて、次なる道はどう来ますかね? どんと来いです。名探偵日葵ちゃんに解けない謎はありませんよ。必ず村に辿り着いて見せます。


 ふむふむ。今回の道は二股道ですか。一本道から二手に道が分かれています。分岐点には古い小さなお地蔵様が鎮座されていますね。

 右も左も奥は見通せないので、先に進んでみないと方角的に合っているかもわかりません。


「分かれ道ですね。どっちが正しい道でしょうか」

「取れる方法はいくつかありますね。二手に分かれる、一緒にどちらか片方に向かう、一人がここで待ち一人が先を確認しに行く」


「うーん、二手に分かれてもどこまで行くかわかりませんよね。その先に分かれ道があれば意味がなくなってしまいます」


「一人だけ先行するのも単独行動と変わりません。ここはどちらに進むか選んで二人で行くしかありませんね」


「ですね~。どっち行きます?」

「とりあえず全て左で行ってみましょう」


「了解です!」


 一つ目の分かれ道を左に進むと案の定といいますか、同じような分かれ道になっていました。

 ご丁寧に最初のと同じくらい古い小さなお地蔵が分岐点に鎮座しています。これって、もしかしてあえて同じようにしてますよね。


 先ほどの取り決めの通り、ここも左に行きます。


 …………行き止まりですね。道が途絶えて、行く手を木が塞いでしまっています。さすがにこれの後ろを進むという訳ではなさそうです。


「行き止まりですね。戻りましょうか」


 政信さんは考え込むようにしていましたが静かに頷かれました。間違ってしまったことを恥じているというより、この道を作った人の意図を考えているようです。


 行き止まりの分岐に戻り、もう一方の分岐を進みます。


 ……はあ。やっぱり同じ作りの分岐道です。お地蔵様も同じです。これ作った人、性格悪いですね。



 それから同じような分岐を何度も何度も左側を選んで進むと行き止まりです。もう半刻ほど歩いていたでしょうか。

 今までの進んだ分が全て無駄になってしまったように途方に暮れてしまいました。

 この道は木々は生い茂っていますが、上はお日様が見えるので最初は気分が良かったのですが、ここまで歩き詰めだと、太陽の暑さが恨めしいです。


 お日様に八つ当たりしても仕方ないのですけどね。この性悪迷路のせいで黒い日葵ちゃんが出てきてしまいます。


 おや? 行き止まりの先に見えるのは……ここへ入るために裏側へ回った一際大きな大木じゃないのかな。

 となると、グルっと一周回って出発地点の方まで戻ってきてしまったんじゃないでしょうか。


「政信さん、あそこに見える大きな木は、出発地点で見た大木じゃないですかね」

「向きが違うので、はっきり言えませんが、おそらくそうでしょう。左、左と来たので大回りして戻ってきてしまっていますね」


「しかも性格の悪い事に出発地点に戻る道はないですね。帰りたいなら来た道を戻れって事でしょうか」

「確かに見知らぬ人に入り込まれたくないという思惑が如実の出ていますね。しかも道の作り込みようといったら、性格の悪さを超えて執念を感じます。これ、迷ったら外にも出れず野垂れ死にしますよ」


「そこまでする必要あるんですかね?」

「裏を読むならそれほど隠したい事があると言えます。期待は高まりますね。面倒ではありますが」


 どちらにしても戻るしかないですね。幸いな事に左しか選ばなかったので、時間を掛けさえすれば、出発地点に戻るのは難しくはないでしょう。

 けど面倒くさいなぁ。近道ないかなぁ。


「やっと帰ってこれましたね。しかし、どうします? このまま進むにしても今日攻略するのは難しそうですよ」

「ここまで性格が悪いのでは、まともに付き合っていられません。私に考えがあります。最初の大木の所まで戻りましょう」



 先ほど一度通ったので藪だらけの細道のいくらか通りやすくなっていました。さあ辿りつきました。


「出発地点の大木の所まで戻ってきましたがどうするのです? 時間的にもあまりゆっくりしていられませんよ」

「お任せください。今回、迷路を勘で進まなければならなかったのは、目的地の位置が分からなかったからです」

「それはわかりますが、どうするんです?」


「この一際大きな大木に登って村がどこにあるか見てやるんですよ。さすがに村なら木々が無いですし、すぐわかりますよ」

「これを登るのですか? 周りを見渡すには優に百尺は登らねばなりませんよ」


 私をなめてもらっちゃ困りますね。小さい頃は山猿と呼ばれて父上と共に山々を駆け回っていたものです。今も小さいって? 誰がそんなこと言ってるんですか?


「余裕ですよ! 日葵ちゃんに不可能はないです! じゃ、ちょっとお待ちくださいね!」


「おいおい、さすがにそれはズルってもんだぜ。せっかく作った道をそんな風に通り抜けられちゃあ、ご先祖様に申し訳が立たねえってもんよ」


「「誰ですか!?」」


 急に背後から声を掛けられました。政信さんも私も全く気配を感じていないので驚いたってもんじゃありません。庭番の人間は、一般人より気配の探知に優れていますし、いくら相手が上手であっても背後に回られても気が付かないなんて。

 一体どれほど技量の差があるのでしょうか。

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