完璧なAI
「えー既に皆さんご存知の通り、我が星の人口密度が高すぎるという問題の解決は急務であり、えーつまりこの問題をまず解決しなければならないと、えー非常に、この先の未来を担う子ども達の・・・」
政治家は毎日講釈を垂れている。
俺はそれを猫の額ほどの部屋で聞いている。
変わらない毎日が永遠と続く。
人類の 月や火星への移住も、課題が山積みで頓挫している。
そんな毎日をぶち破るように、
今日の野党の答弁は熱が入っていた。
「先日発表されたAI、総理ご存知でしょうか。これ一昨日出たものですが、今までに類を見ない程優れたAIだそうです。
特筆すべくは、これね、政治に関して特に注力して作られたAIという事なんですよ。
総理、人口密度の問題、これ解決が急務という事であれば、猫の手ならぬ、AIの手を借りてでも、解決しなければならないとは思いませんか。
口ばかりで何もしていない事、国民全員が気付いているのではないかと、私思いますよ。
いかがでしょうか総理。」
「えー勿論、存じております。
ただAIに政治を任せるのはいかがなものかという意見があるのは事実でありまして、えーですから安易にですね、そういったものに頼ってしまうのは、果たして国民の総意と言えるのかと・・・」
世界が変わるのに、時間は要らなかった。
総理の言葉を余所に、世論は沸き上がり、
程なくして、AIは政治の世界に入り込んだ。
AIが配備されたのは、
『他惑星移住計画』
を推進する省庁だった。
AIは次々と成果をあげていく。
最初は懐疑的だった人達も、その様子を目の当たりにした事で、徐々にAIの虜となった。
AIのお陰で、大型シャトルの開発や、法の整備、その他諸々も全てが順調に進んだ。
そして遂に・・・
「えー皆様に、やっと、えーこの事が発表できる日が参りまして、大変、嬉しい気持ちであります。えー発表と申しますのは、えーつまり・・・」
火星への移住がスタートした。
AIの計画に則り、まずは試験として政治家達が移住する事となった。
大型シャトルは大型なので、
ほぼ全ての政治家が搭乗可能だった。
シャトルは無事出発。
大気圏を突破し、
そして火星に到着した。
まずは政治家達が降りる。
そしてその政治家達が文句を言いながら、
今度は衣食住を担う荷物達を下ろそうとする。
だがその時、事件は起こった。
荷物を載せたまま、シャトルが地球に向かって発進してしまったのだ。
政治家達は慌てふためいた。
通信機もシャトルに置いたままだったのだ。
小さくなっていくシャトルを眺める。
段々、段々小さくなり、
そしてとうとう見えなくなった。
政治家達はただ呆然と、途方に暮れるしかなかった。
政治において大事なのは、
『素早く結果を出す事』
そして
『邪魔者を排除する事』
だ。
AIにとって邪魔な政治家達はいなくなり、
そしてその分人口も減った。
政治に特化したAIは、
今までに類を見ない程、完璧だった。
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