愛娘

娘はこう言った

「はやく おとなに なりたいなー」


私はこう返す

「そうかー? 大人は大変だぞー?」


娘は生まれてから2年経ち、

ちょうど6歳になった。

もうそろそろ物の分別がついてきた。

このぐらいがちょうど可愛いのかもしれない。


2年前、娘は4歳という若さで死んだ。

人間のほうのだ。

家族旅行で海に行った際、

高波に飲まれ、

妻も娘も帰らぬ人となってしまった。


幸か不幸かはさておき、

ウチはアンドロイド保険に入っていたので、

娘の記憶、容姿をそのまま引き継いだ

アンドロイドを受け取る事ができた。


受け取ってから2年、

最初はどこか気味悪く感じたアンドロイドも

今や私の愛すべき娘となった。


とはいえ身体の成長は無いので、

一年に一回の誕生日に、身体の更新を行う。


この日ほど娘の死を突きつけられる日は無い。


ただ、諸先輩方の話では

「人間としてのではなく

 アンドロイドとしての娘を愛せるように

 なれば、この日ほど楽しみな日はない」

とか・・・。

今の私には想像もつかないが・・

まぁハマる人はハマるのかな・・?






10年後・・

娘の16回目というか、

14回目の誕生日が来た。

16歳となった娘は、幸い反抗期ではなかった。

いや、幸いというか、私がそう選んだ。

アンドロイドなのである程度その辺りは柔軟に

できるのだ。


アンドロイド育児歴10数年の私は

すっかりアンドロイドの虜になっていた。

子育ての大変な部分は軽減させておき、

幸せな部分だけを色濃く残す。

これができるのはアンドロイドならではだ。

まさに私の理想の娘であった。


誕生パーティーを終えた翌日、

身体の更新のため、

工場というか、

病院に向かう。

向かう車の中、娘はこう呟いてくれた。

「お父さん、

 いつもありがとう。

 私幸せだよ。」

毎年同じセリフだ。

だが・・いやだからこそ、

毎年この日を心待ちにしている。

「この日ほど楽しみな日はない」

今の私なら自信を持ってそう言える。


病院に着いた。

受付のバイトというか、

看護師のお姉さんに声をかける。


「すいません、誕生日健診・・えっ!?」

「はい?・・・えっ!?」


私たちはお互いに目を丸くした。

私は受付のお姉さんを

お姉さんは私の娘を見たまま固まった。


受付の人間は、

紛れもなく私の娘だった。

しかし何故・・!

確かに遺体はあがらなかった・・

でも・・いや・・しかし・・!!!


固まったお姉さんの目線が下の方に動く。

ハッとして横を見ると

私の娘は電源が切れたように崩れ落ちた。

いや、電源が切れて、崩れ落ちていた。

アンドロイドが実際の娘と対面した事で、

アンドロイド保険の効力が切れたのだった。






私は今、一人で暮らしている。

一時期は娘・・

というか人間のほうの娘とも暮らしたのだが、

アンドロイドの娘を愛した私には、

人間の娘は愛せなかった。



世の中では

アンドロイド保険はますます人気らしい。

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