傾いた会社

「これはオフレコなんだけどな、

 ウチ、そろそろヤバいらしいぞ」


先週辞めていった上司は

そう言い残して去っていった。


社内報をちゃんと読んでいれば分かる事だが、

ヤバいはずはない。

業績は良いし、人もどんどん増えている。

今辞めるなんて考えられない。


ところが辞めていく人間は皆口を揃えて

「ヤバいらしい」

なんて言う。


私は流石に不安になっていた。

正直強がっている面もあったのだ。

幸い人事に仲の良い同期がいたので、

その辺について聞いてみた。


「最近定期的に誰か辞めてくよな。

 でも新しい人はどんどん増やしてる・・。」


同期は少し嬉しそうに応える


「おう、そうだな。どんどん増やしてる。

 業績いいからな。」


私はいよいよ核心に迫る。


「業績はいい・・はずだよな?

 でも辞めてったやつら、

 皆『そろそろヤバい』とか言うんだよ・・」


不安そうな私をよそに、同期は大笑いした。


「お前もとうとう気付いたか。

 お前とは長い付き合いになりそうで

 良かったよ。」


わけが分からず言葉の出ない私に

同期は続けた。


「あれはな、ウチなりの人事施策なんだよ。

 分かりやすく言えばリストラだ。

 でもリストラなんて

 おおっぴらにできないだろ?

 だからリストラしたい奴の周りで

 『そろそろヤバい』なんて噂を流すんだ。

 するとそいつ自ら辞めていく。

 いや〜ウチの部長も

 なかなか悪い事考えるよな〜・・」

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