俺の転生担当天使が、ケチすぎる上に指示厨でうるさい

@YA07

第1話 異世界転生も世知辛い


「ねえ聞いた?アムエル様の話」

「聞いた聞いた!また最優秀天使賞を貰ったんでしょ!憧れちゃうな~」

「転生者にピッタリのアイテムに寝る間も惜しんで寄り添うサポート!私には絶対真似できないなあ…………さすがは今最も女神様に近い天使って感じ!」


 そんな会話が響くのは、天使界の中心に聳え立つ広大な施設・天界図書館の片隅だ。ここでは数多存在する世界と、そこで暮らす人間たちの情報が全て確認できる。

 その天界図書館は、常に多くの天使たちでごった返していた。その理由は、苦難を強いられている世界を救うべく他の世界から勇者を転生させ、そのサポートをするというのが女神様から与えられた天使の使命だからだ。そのために天界図書館で情報を集め、勇者をサポートするのが天使の仕事ということになる。


「……よし。今度の世界は一大勝負ね。今回もまたこのアムエル様が一番…………稼がせてもらうわ!」












「あれ……ここは……」


 目が覚めると、俺は不思議な空間にいた。

 目の前には何やら書類のようなものを見つめながら唸りを上げる、羽を生やして頭上に光輪を浮かべた者。そして四方には真っ白な空間が広がっており、確かに踏みしめている足元もまた真っ白だった。

 まさかとは思うが、これはいわゆる異世界転生というやつだろうか。いや、そうに違いない。だとすると、目の前のこのお方は天子様かはたまた女神様か。俺はもしや、選ばれし勇者というやつ───


「はぁ~……今回は捨てね。ホント最悪」


 自分は選ばれし勇者なのでは?などと浮かれたのも束の間、目の前の天使だか女神だか知らない誰かがため息をつきながら俺にゴミを見るような視線を向けてきた。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!まずここはなんなんですか⁉あなたは⁉」

「うるさいわねゴミ虫」

「ゴミ虫⁉」

「いい?ここは転生の間。私はアンタの転生担当天使のアムエルよ。よろしくね、ゴミ虫」

「本当によろしくするつもりあるんですか⁉」


 天使ってこんなんなのか⁉俺の想像と全然違うんだが⁉


「なに?その失礼な目は」

「い、いえ……その、俺ってこれから異世界転生するってことでいいんですよね?」

「そうよ」

「それって……俺は死んだってことですか?」


 たしか昨日は徹夜でゲームをして、それから……記憶がないな。

 俺がそんなくだらない回想にふけっていると、アムエルがため息交じりに答えた。


「そうね。徹夜でゲームをして寝落ち。それから起きて寝ぼけたまま階段を降りようとしたところで頭から滑り落ちて死亡…………って、ダッサいわね」

「…………」


 やっべ、なにも反論できねえ。


「ま、アンタの死因なんてどうでもいいわ。それよりアンタ雑魚すぎ。ステータスもゴミだし、才能もない。伸びしろなんて皆無。こんなんで大魔王に勝てると思ってるの?」

「いや、知りませんけど…………」


 大魔王?誰だよ。現代地球人の実力なんて基本的にみんな俺くらいのもんだろうが。


「一応さっき色々考えてみたけど、ダメね。アンタじゃ何しても稼げそうにないわ」

「ダメって…………ほら、転生特典のチートアイテムみたいなやつはないんですか?」


 異世界転生といえばチートアイテム。チートアイテムといえば異世界転生。これは切っても切れぬ縁というやつだ。

 俺が期待の眼差しをアムエルに向けると、アムエルはペッと唾を吐く素振りをして冷たい眼差しをこちらに向けてきた。


「チートアイテム?あるわよ」

「やっぱりあるのか⁉」

「でもアンタにはあげないわ」

「なぜ⁉」


 あるならくれよ!という俺の当然の要求は、アムエルに一蹴される。

 アムエルに詰め寄って説明を求めると、アムエルはめんどくさそうに理由を話し始めた。


「いーい?この世っていうのはそんなに甘くないの。チートアイテムだって天から降って湧いてくるものじゃないってワケ」

「降って湧いてこないって…………じゃあ、どこから?」

「私の懐からよ。私が天使ポイントでチートアイテムを買って転生者に与える。それで転生者が残した功績に応じて、女神様から天使ポイントを頂く。そうやってこの世界は回ってるの」

「はあ…………」


 つまりは、俺にチートアイテムを買ってもその分だけのリターンがアムエルに返ってくる見込みがないということだろうか。

 しかし、そうなると一つ疑問が残る。


「じゃあ、なんで俺が転生者に選ばれたんですか?」

「私は知らないわよ、転生者は女神様から与えられるものだし。前からアタリハズレはあったんだけど、まさか今回に限ってこんな大ハズレを引いちゃうなんて…………」

「ちょっ、大ハズレは酷くないですか⁉…………って、いや、それより、今回に限ってっていうのは…………?」


 不穏なワードにツッコむ。すると、アムエルは天を仰いで嘆いた。


「今回の世界はおいしそうだったのよ…………!」

「おいしそう?」

「六人の魔王に、それを束ねる大魔王!大魔王を討伐するだけでも、二…………いや、三千ポイントは固いわ!それなのに…………なんでこんな…………!」

「いや、そんな恨めしそうに見られましても…………」


 よくわからないが、天使の事情も色々と大変そうだ。

 などと他人事のように思っていると、アムエルがぷりぷりと怒ってくる。


「あーもう!いい⁉アンタに魔王は倒せないけど、死なれても困るのよ!」

「えっ、それって…………俺のこと…………」


 ドキリと胸が高鳴る。いや、待て待て。相手は天使だ。人と天使の恋なんて、良くてバッドエンド。悪くて…………


「ポイントが減るからね」

「…………」


 そんなことだろうと思ってましたよ、ええ。俺なんてゴミ虫らしいし。

 なんて茶番はともかく、アムエルは俺に向かって五本の指を立てた。


「だからトップ狙いは捨てるわ。目標は五位以内よ!」

「…………それって、他にも転生者が?」

「ええ。今回は十人ね。いくらハズレを引かされたからといって、保有天使ポイント現在一位のこのアムエル様が上位脱落は認められないわ!」

「保有ポイント一位⁉ならチートアイテムの一つくらい…………」

「ダメよ!そういう無駄遣いがランキングに響くの!とにかく最低五位以内!魔王の影響で色々困ってる人がいるから、狙いはそこよ!いかに低予算でコツコツポイントを稼ぐか!」

「えー…………せっかくの異世界転生なのにそんな乞食みたいな…………」

「乞食よアンタなんて!ほら、さっさと行きなさい!」

「え、ちょっと…………待って待って!もうちょっと説明を」

「うるさーい!」


 抗議の声も空しく、アムエルに押されて俺は渦巻く闇へと吸い込まれていった。

 なんというか、異世界転生も世知辛い世の中になったものだ…………


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