第9話

 瑞葉さんの手元には、B5サイズの薄い本。表紙は、女の子の服が艶めかしく脱げている。そして、R-18のマーク。

 それは、完全なだった。

 さて、どうしたものだろうか。頭の中には、いくつかの選択肢が現れる。


〇開き直る


〇「俺の秘密を知ったな」と言って、押し倒す


〇「な、なにこれ」とシラをきる


〇「貴女あなたはナニも見ていない」と言って、そっと隠す


 うーん。

 とりあえず、二番目のはないな。今、この現状が成人向けオリジナル同人誌ならば、いや、成人向けマンガならば、そこから一気にもっていくのがオイシイかもしれない。だけど、これは薄い本の世界ではない。現実リアルでの話だ。そんなことをやったら、ここからの関係性がしんどくなってしまう。

 あと、俺はレ〇プ系は好きではない。だからといって、そういう系の方が好きな人のことを否定しない。

 ただ、そういった行為というモノは、ただただ一方が気持ちよくなるためではなく、互いが合意した上でするモノだと、俺は思っている。

 もっと言うならば、愛しあう行為の延長線上にあると、俺は思っている。

 幼稚な考え方だと、客観的に見ても思うけど、これが俺だ。

 あー、イタイこと言ってる~。こう考えてしまう俺を消し去りたい。

 

 とりあえず、俺は最後の選択肢を使用することにした。多分、これが一番無難。


「貴女はナニも―――」


 と、言おうとすると、瑞葉さんはそれを、読んでいた。止めようとすると、瑞葉さんはパタンと本を閉じた。


「し、慎司くんは、や、やっぱり、う、初心なんだね」


「グハッ」


 純情男子だということが、本格的にばれてしまったという、この精神的ダメージ! 普通に純情男子ということが、なんだか恥ずかしい!

 真っ赤な顔をしている瑞葉さん。その場からヨロヨロと立ち上がろうとする。が、フラフラとしていて、崩れ落ちそうになる。

 すぐさま俺は、瑞葉さんの支えに入った。


「わ、私、この本のように、なっちゃうの!?」


 キュッと目をつぶる瑞葉さん。そんな瑞葉さんを、床に座らせて、俺は言った。


「しませんよ。付き合ってもないんですし。っていうより、なんで読んだんですか。顔、真っ赤にしてるのに」


「だって、慎司くんがどういうのに興味があるかが、気になっちゃったんだもん」


 瑞葉さんはプクーと頬を膨らませた。いやいや、頬を膨らませるようなことをしたか、俺?


「慎司くんって、純情オトメなんだね」


 いつもの俺ならば、普通に「なにを言ってるんですか」とか言えたのだろう。

 だけど、今の俺は、いつもの俺ではない。

 恥ずかしさのあまり、俺は顔を真っ赤にして、うつむいた。黒歴史がまた一つ、増えてしまったような気がしてならないのは、俺だけだろうか。

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