第3話

「もしかして、それって」


 瑞葉さんは、俺が持っているレジ袋を指さしていた。


「はい、晩ごはんです」


「菓子パンだけじゃ、だめだよ。まだ若いんだから、しっかり食べなきゃ」


「でも、弁当が売り切れていて……」


 悲しいようだが、これが現実だ。

 瑞葉さんは、だまりこんでしまった。これ以上、心配をかけてはいけない。


「瑞葉さん、俺、菓子パンでだいじょうぶなん―――」


 で、と言おうとすると、瑞葉さんが、


「私の部屋で一緒に食べよっか」


 と、思いついたような顔で言ってきた。


「そ、そんな気を遣わなくても、だ、だいじょうぶですよ。瑞葉さんにも、迷惑でしょうし」


「ごはんって、一人で食べるより、誰かと食べるほうが楽しいでしょ」


「でも……」


 そう言われたら、なにも反論できない。

 だけど、初対面の人といきなりごはんを食べるって、難易度が高すぎなような気がする。高校のときは、ずっと友人と食べていたし。

 その友人は幼稚園からの付き合いだから、大丈夫だったけど、それは無邪気な子供のときからだったわけで。

 あれから成長して、今は無邪気な子供というわけではない。


「どうかな?」


 瑞葉さんは、ゆっくりと待ってくれている。

 ぐぐ、早く答えないと、瑞葉さんに迷惑になってしまう。


「……お言葉に甘えて、ご一緒させてもらっても……」


 言ってしまった!

 恥ずかしさのあまり、心臓がバクバクしているのがわかる。落ち着けぇ、落ち着けぇ。


「ありがとね、私と一緒に食べるって言ってくれて。それじゃ、一緒に買い出しにいこっか。今日は、私のおごりでいいから、好きなもの言っていいよ」


「そ、そんな。俺も出しますよ」


「私から言い出したことなんだし、私からの引っ越し祝いって思ってくれたら、いいから」


 そう言われたら、言い返す言葉が思いつかない。


「ほら、菓子パン、部屋に置いて、スーパーにレッツゴーしよ」


「はい」


 さっき来たスーパーにまたも到着。

 さっきよりも、人が増えていて、少し混雑していた。というよりかは、この時間から混み始めるのだろう。

 買い物かごを取った瑞葉さんのうしろに、俺は並ぶ。

 となりに並ぶのは、少し抵抗があった。

 そんな俺を見て、瑞葉さんは、少し微笑んで、受け流してくれた。


「なににしよっか、糸吹くん」


 う~ん。

 いつも、お母さんに「晩ごはん、なに食べたい?」って聞かれて、「てきとー」って答えてたから、なかなか思いつかない。


「なかなか思いつかない?」


「すいません。普段、料理をしないんで」


「そっか。お祝いって言っておいて、なんだけど、私からメニューの提案をしてもいいかな?」

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