幼馴染が積極的なんです!!

広野ともき

第1話

「んん」


 空がまだ少し暗いころ。俺は枕元に置いておいたスマホから流れてきた音楽で、俺は目を薄っすらと開けた。

 今日からは十二月。今月で今年が終わってしまうと考えると寂しい。大きな出会いがあったなぁ、と思わず振り返ってしまう。

 俺はとりあえずトイレに行こうと思い、体を起こそうとする。しかし、体を起こすことはできなかった。俺はなにかに抱かれていた。


「おはよ、さとる」


 となりには俺の幼馴染の船坂ふなさか明日香あすかが添い寝をしていた。目の前に明日香の顔がある。唇がとどきそうなくらい、近い。


「うーん、さとる、あったか~い」


 更に明日香は抱きしめる力を強くしてくる。胸の柔らかい感触が俺の右腕に伝わってくる。トクン、トクンという鼓動も。そこから伝わってくる明日香の体は温かかった。


「苦しいし、トイレに行きたい」


「だ~め。さとるはわたしと一緒に居るの」


 俺は明日香を引き離すことはできなかった。明日香は俺の力が入らないように、俺のことを抱きしめている。そして、明日香のテンションがなんだかおかしい。


「あの、ほんとうに漏れそうなんですが」


「ほんとに~?う~ん、しょうがないなぁ。いいよ。でも、トイレが終わったあと、もういっかいだよ」


 もういっかい、の意味はよく分からなかった。いや、教えてもらいたくないが。俺トイレを済ませたあと、自部屋に戻ること以外、することがない。俺はトイレを済ませ、部屋に戻った。


「んん〜、布団あったか〜い。あ、さとる~。こっち、こっち」


 俺の布団で明日香は完全におくつろぎになっていた。俺の布団……。俺は明日香のところに近づいた。


「なぁ、思うんだけど」


「ん、なに~、さとる~」


「お前、よく俺の部屋にいるけどさ」


「わたしはお前じゃありみゃせ~ん。わたしは明日香で~す」


「見られたくとないというものがあるというかさ、ここは俺のプライベート空間だから、勝手に入ってほしくないんだよ」


「見られたくないものって、まさか!」


 一呼吸置いてから、明日香は言った。


「えっちぃ本かな?わたし分かってるから。でも、そういうのはわたしでやってほしいかなぁ。知らない人でさとるが、そういうことをしてるって考えると、わたし、なんか悲しくなる」


「……」


 俺は最近、明日香は変態、と思うようになってきている。中学まではぜんぜんこんなのじゃなかったんだけど。

 なんでこうなった?


「今からしてもいいよ?さとるがその気なら」


「やらないよ。俺たちまだ、高校生だろ。そういうことは早すぎるし、責任を持てない」


「わたし、さとるとならいいよ、って思ってる」


「そうだとしても、俺は責任を持てるときが来るまで、しない」


「もう、さとるは昔から真面目さん。でも、そういうところが好き」


 明日香はスペースを作り、こっちこっちと、そこに俺を誘っていた。この子、俺が言ったこと、分かってるのかしら。


「さとる、寒くない?」


「それなりには」


 デジタル時計を見ると、室温は十二度ほどだった。朝からこの気温は普通に寒い。


「じゃあ、一緒に温まろ」


 俺は椅子に座って、明日香のほうを向いた。寒いけど、こっちのほうが良かった。だって、そこで明日香の隣に行くと、確実になにかが起こるとしか思えないから。


「それでだけどさ、勝手に入ってきてほしくないんだよ」


「えっちな本があるから?」


「そうじゃない。明日香にもないか?見られたくないものとか」


「わたしにはないよ。さとるにはね」


 と即答した。これは話が通じないかもしれない。俺は食い下がる。


「俺以外の相手には、どうだ」


 う~ん、とわかりやすいリアクションを取ったあとに、「たしかにあるかも」と答えた。


「だろ。みんなあるんだよ、知られたくないことが一つや二つ。だから、俺の部屋に勝手に入ってこないでくれ」


「じゃあ、入るときは許可をもらうね」


 ふぅ、一安心。これで俺のパソコンの中身を知られなくて済む。パソコンの中には、俺にとって、とっても大切なものが入っているのだから。誰にも知られてはいけないものが。


「それで、さとる。今日はなにをするの?」


「そうだなぁ」


 俺は日付は分かっているがカレンダーのほうを見る。今日は土曜日で、期末試験が終わり、本格的に作業を始めようと思っていた日だ。だけど、明日香がいるからできない。

 でも、まだ日にちはあるから大丈夫だろう。多分、間に合う。


「特にないけど」


「わたしも。わたしたち、今日はヒマだね」


「そうだな」


 俺たちは意味もなくクスクスと笑った。朝からこういった笑いは、一日を気持ちよく過ごさせてくれるような気がした。


「それじゃ、みんなで遊ぼうよ。テストも終わったし、今日はいい天気になりそうだし、気持ちよく遊べるしね」


 明日香が中学時代から変わったことはもう一つある。明日香が俺以外の同級生と遊ぶようになったことだ。明日香は昔から人見知りで、俺としか遊ばなかった。でも、今は違う。明日香には俺以外の友達がいる。

 なんでだろう、なんか感動しちゃう。


「どうしたの、さとる。ボーっとして」


「なんでもない。とりあえず誘ってみるか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る