とある日記

大根初華

とある日記

 四月五日

 日記をつける。

 その行為は職業柄あまりよろしく無いかもしれないが、失敗談などを記載しておくことで、今後の糧、あるいは、復習をするということにしておきたい。

 

 いつ死んでもおかしくない職業なので、自分の死後誰かがこれを読む可能性も考慮して、名前などは極力ぼかしておく。

 この日記自体を封印しておくことには越したことはないのだが……。

 

 四月六日

 今日依頼があった。

 ターゲットはとある深窓の令嬢とのこと。

 依頼人曰く色々あるらしい。

 ひとまず受けるかどうかは別にして調査してみることにした。

 

 五月九日

 調査結果を依頼人に報告。

 本当に殺してしまっても良いかその意志を確認する。

 殺し屋である私に倫理観を問われるのは不服かもしれないが、一般世間において殺しはご法度になるので、確認しないことは私のポリシーに反する。

 

 依頼人はもちろんOKとのこと。

 ターゲットのルーティンや生活リズムなどを確認して、実行する。

 

 五月三〇日

 一通りルーティンや生活リズムの調査を終えた。

 ターゲットはやはり深窓の令嬢と呼ばれることだけあって、ほとんど外出しない。やはり内部に潜入するしかなさそうだ。

 

 六月二日

 色々情報を探していると今日になって、ターゲット宅で、まもなく自宅の改修作業を行う、との情報が飛び込んできた。

 どさくさに紛れて潜入するには絶好の機会だ。

 

 六月二六日

 改修作業が開始されて二週間ほど。スキを見て、潜入。

 だが、偶然にもターゲットとエンカウントしてしまった。

 スタッフになりすまして、軽く会釈してそのまま通り過ぎたのだが、彼女の眼がこちらを見ていた気がした。

 この眼は知っている。

 経験上のこの眼に触れた時にはろくなことが起こらない。

 

 六月二七日

 依頼人にキャンセルの申し出をし、全額返金。

 やばい匂いに敏感でなければ。

 

 六月二八日

 部屋の配置になにか違和感を感じる。

 気のせいか……?

 

 六月二九日

 なんだ……?

 誰かに尾行されているのか……?

 

 六月三〇日

 いや、間違いなく尾行されている。

 あの令嬢か……?

 

 七月二日

 今日たまたまあの令嬢に出逢ってしまった。

 そして、あの眼とともに、衝撃の一言。

 手を出したのがまちがい』

 

 一人の女性が男が血を流して倒れているのを見下ろしていた。

 服装や佇まいはいかにもお嬢様然としているのだが、一つだけ不釣り合いなものがその手に握られている。

 

 ――――それは硝煙が昇る拳銃。

 

「わたくしに手を出したことが間違いでしたわね」

 

 女の言葉だけが静かに響いた――――。

 

 END

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とある日記 大根初華 @hatuka_one

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