死にたい話

くじらのなみだ

蝉に何を思う

死にたい、毎日そう思っている、何故なのか心当たりがあるようで実はないようにも感じる、心が万華鏡の様に千変万化している、信じた物が一つだけあった、だけどそれさえも裏切っている自分がいる。


蝉の命を燃やす声が聞こえている、俺も蝉のように周りに迷惑と思われても何も考えずただ自分の大切なものに必死になりたかった。

そういえば昔も蝉の声に何かを思ったな、なんだったのか思い出してみる。


「たかしー!遊ぼうー!」


俺は友達の家の前で友達を呼んだ、

しばらくして出てきたたかしは虫かごを抱えていた、俺が住む所はとても田舎で山と海に囲まれたド田舎だった、学校は小中一貫校で全校生徒40人くらいのところだった、だから店なんてものはなく小さい村に自販機が4つあるだけの村だ、ちょうど夏休みが今日から始まったので友達の家で捕まえたクワガタを見せてもらうことにする


「すごいやろ!これヒラタクワガタ、お父さんが捕まえてきてくれたんだ」


そうやってたかしがみせたのはとても大きなヒラタクワガタだ俺はとても羨ましかった、クワガタがと言うより子供のために何かしてくれるお父さんが羨ましかった、俺のお父さんは大工さんらしい、仕事以外は家で酒を飲んで寝るそして機嫌がいい時は俺と話してくれる、俺はその時間が大好きだったがやはりお父さんに何かしてもらいたいという子供心もあった。


「いいなー、俺まだクワガタ捕まえてないんだよ、今度取り行こう」


「わかった!今日何する?」


約束してもらって今日の遊びを考える

ここは田舎、そして夏ということもあって遊ぶなら海だろという意見でまとまった、本当は大人を連れていかないといけないんだろうが、この村でそんなことを気にする大人はいないので普通に子供二人で海に遊びに行った

半袖短パンのままマンションの2階くらいの高さの桟橋から海に飛び込んだり浜辺の流木でチャンバラしたり大きな岩山を歩き回って秘密基地にしたりザ田舎っ子みたいな遊びを夏になったら毎年のようにしていた。


日が暮れて6時を知らせるチャイムがなった、小学生が腕時計をつけていたり田舎なのでスマホ持ってるわけでもないので6時のチャイムが帰る合図になっていた


「またあしたー」


「ばいばいー」


そう言って別れた俺はびしょびしょの服のまま家に帰る、濡れた服のまま玄関をぬけ風呂場に向かってバケツに濡れた服をいれて水につけておく、砂や塩を落とさないと服が選択できない母親に言われてそれを守っていた。

シャワーを浴びて濡れた廊下を拭いた。

そして親は帰ってきていなかったので近くに住んでいる祖母の家に行くことにした。


祖母の家に入ると蚊取り線香の匂いがした

祖母は節約家でクーラーを使わない、だから四六時中窓を開けっぱにしているのだが、田舎だからか蚊がとても多い、蚊取り線香を炊いているのにも関わらず命を繋ぐためどうにか家の中に入っては血を吸ってくる、蚊と格闘しながら、リビングで無口な祖父と一緒にテレビを見ていると祖母がスイカを出してくれた


「スイカ貰ったからたべんね」


俺は貰ったスイカを手も口の周りもぐちゃぐちゃにしながら食べた、その姿を祖母は笑いながら見ていた。


しばらくテレビを見たり祖母と話していると窓から母親が帰ってきたのが見えた、俺は少し憂鬱な気分になりながらも祖母に帰るねと言って家に戻った。


家に入ると母親が料理を作る準備をしていた


「アンタ早く勉強しなさい、去年も宿題やらずに学校行って怒られたでしょ、今年は計画的にやりなさい」


俺は、はーいと適当に返事しながら自分の部屋に戻って父親の部屋から持ってきた漫画を読み始めた、しばらくすると母親が大きな声で俺を読んだ窓の外を見ると暗くなっていたし多分ご飯だろうと思いキッチンに向かう


キッチンはそこそこ広くて大きなテーブルに父親、母親、姉、俺そして弟2人の6人が座ってご飯を食べる。

俺はその時間が嫌いだった、嫌いな母親と面倒くさい弟が2人いる中で仲良く食事が出来るわけなかった。


下から二番目の弟がズズズと大きな汚い音を立てながら味噌汁を飲んだ、俺はそれを不快に思った


「お前音たてながら汁飲むな、気持ち悪い」


すると弟はごめんと言って直ぐにやめて別のものを食べだした、それを見ていた母親がわざと俺の方を見ながら音を立てながら味噌汁を飲んだ


「きも、うざいよ」


俺はそういった、すると母親は大声で怒鳴り出した


「アンタにそんなこと言われる筋合いありません、もう喋るな!!」


俺は母親のこういうところが嫌いだ、多分母親は自分の方が偉いとか逆らえないと考えてやったのだろう、それに反抗した俺が気に食わなかったみたいだ、


しばらく無言の時間が流れた、母親が切り替えたように俺に話しかける


「今年の自由研究は何するの?」


俺は喋るなと言われたのでシカトした、すると母親はまた怒り出した


「無視するな!!」


その言葉に俺は驚いたフリしながら言う


「えぇ?!お母さんが喋るなって言ったやん、どういうこと??」


そういう俺に母親がまた何かを言おうとする

が父がそれを制すように言った


「確かにお前は何も悪くない、お母さんが喋るなって言ったもんな、それで正解や」


母親は父親を睨みつけたが何も言わずに黙って食事に戻る、そして自然に解散となった。


あれから暇になったので外を散歩することにする、始まったばかりの夏は太陽が沈んでも蒸し暑さを残していた、ふと山を歩いているとセミが鳴き出した、俺は周りの迷惑を考えずに怒鳴る母親に蝉の姿を重ねて無性に腹が立った、足元に落ちている石ころを投げてセミを殺した。

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