第12話

 今は朝のショートホームルームの始まる前ののんびりとしている時間。クラスメイトたちはいつも通りに楽しそうにおしゃべりをしている。


 だがしかし。


 物語がそうであるように、いつもと違うことが何か起きた時というのは、それが影響を及ぼして、いつもと違うことが起きる。


 植物のような心の平穏な日常というにはならないのだ。


「おい新見よ。何が起こっているのだ」


「事の発端となったことは心当たりがあるが言えない」


「ちょっと来いと言ったのは貴様ではないか。困った顔をして。説明する責任はあると思うぞ」


 俺は困っていた。


「へえ、修哉君ってそうなんだ」


「でしょ! 本当にシュウはかわいいの!!」


「愛されてるね~。修哉君」


 ニヤニヤとした表情で柊木は俺を見る。顔が熱くなっていくのが手に取るように分かる。


 この場から消え去りたい。ホント、ホントにヤメテ。ホント恥ずかしいから。


「でね、シュウはこう言ったの」


「なになに?」


「責任取れるようになってからって言ってくれてね。私、本当に嬉しかったの。シュウが私のことをちゃんと考えてくれてて。勝手にほっぺがゆるんじゃうよ」


 エリカは両手でほっぺをムニュムニュしていた。それを見ながらを柊木は幸せそうだねと言う。


「シュウのこと以外考えられないよ」


 ニヤニヤして柊木は俺のことを見た。


「ほら彼氏さん。ここの席が空いてるよ」


 無理やりさっきまで柊木が座っていた席にすわらされる。いや、ここ俺の席······。


「籠野君、一緒にジュース買いに行こ。今日飲み物忘れちゃったんだ」


「そうだな。我も馳せ参じることにしよう。この幸せオーラにあたりつづけていたら我まで幸せに侵略されてしまう」


 二人とも教室から出ていってしまった。


 俺とエリカが残る。


 エリカはまだほっぺをムニュムニュとしている。二人が出ていったことにまだ気がついていないようだ。


 愛が重いような気がするけど、俺も悪い気はしなかった。心が温まる感覚がする。けど、さっきみたいに話されると恥ずかしすぎて、困るけど。


 それにしても。


 柊木のコミュニケーション能力はすごい。


 あの数分でエリカとここまで仲良くなるとは。


 朝、エリカと柊木を付いていくように歩いていた。そしたら柊木がエリカに近づいて何か話しかけた。最初はエリカは敵対心を抱いていたようで、所々風に乗って聞こえてくる言葉は刺を持っていた。


 しかしその刺は徐々になくなっていき、教室に入るころには、恋のことを相談する親友みたいな間柄になっていた。


「あれ柚香は?」


「ジュース買いに行ったぞ」


「シュウのこと考えてたら、周りのことが見えなくなるよ」


「危ないからほどほどにな」


「私、シュウのことを好きになってよかった。これからも一緒にいてね」


 彼女は俺に語りかける。


 その表情は幸せに満ちたものだった。


 俺は気恥ずかしくなって、顔をそらした。


「そうだな」


 これが俺にできる精一杯のことだった。


「シュウ、大好き」

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