小恐怖 思い通りの世の中

@watakasann

第1話 前編



 自分自身に不思議な力があると思ったのは、2010年頃、今から二十年前の中学校在学時だった。しかしそれは今考えれば俗に言う「中二病」の一つに違いなかった。

 

 私は男子の学級委員長だった。そして、ある先生の授業の時は、まるで「許されたように」みんなおしゃべりをして、先生の小さな声が全く聞こえない状態になっていた。以前は「静かに」と言っていたのだが、何度言っても収まりはしない。とうとう私の方が根負けをして、その主要人物を「睨み付ける」ぐらいしかしなくなった。

するとしばらくして


「え? 急な転校? 」


おしゃべりの中心になっている生徒のことだった。もちろん特に仲が良かったわけでもなかったから心底喜んだが、すぐにナンバーツーがナンバーワンに昇格し、授業は同じように騒がしくなった。しかも「自分の今」がうれしいらしく、前の生徒よりも声が大きい。


「くそ、もっとひどいじゃないか。怖い先生の時は絶対にしないのに、こう言うの「要領がいい」って言うんだろうか、じゃあ僕は・・・」

と少し悩んでいると


「え? また急な転校? 」

そう、全く同じ事が起こったのだ。

自分が嫌と思った人間が、目の前から二人いなくなったのだ。


 まだ狭い中学生の世界で、この連続の出来事は独特過ぎる感情の記憶になった。

「うるさいヤツが二人転校したんだな」

クラスメートはそう言って笑っていたが、私にとっては、罪と罰、社会的道徳、神の存在、そして、その頃も0.0何%と思った自分の能力への恐怖と、深く考えさせられた。

中学生とはいえ、さすがにこの後、神社に参った。

その姿は、周りからは受験生の合格祈願としか思えなかっただろうけれど。


 では高校生になるとその力は強くなったかと言うと全く逆で、大好きだった先生が、私の高校卒業後、若くして亡くなった事を聞き

「ああ、何てことなんだ、神様はいるのか」

と今度は世の中の「不条理さ」に心を痛めざるを得なかった。


 そうして大学を卒業し、就職した。就職して十年、現在は2030年だ。今は自分の若い頃と随分違う。


「コロナウイルスが席巻してその後のウプシロン株、コレを何とか押さえ込んでいるんですから。特に若い人たちは年配者に素直に感謝していますしね」

「でもそれだけでなくて、最近の若い親御さんは、子どもの相手もキチンとされていますよね」

「私は70過ぎですが、私の方が妻に任せっきりだったですよ、恥ずかしいです」

テレビのワイドショーでも、良くこういう会話が聞かれている。


 民主国家のこの国においても、貧困率、犯罪率の低下は著しく、幼児虐待などは「過去の負の遺産」とまで言われるようになった。

確かに周りを見ても、穏やかに子育てをしている若い夫婦が多い。

私は現在、彼女はいないが、帰宅時に公園の横を通ると、元気で、でも落ち着いた子どもの姿で、疲れが癒やさている。


それは今がウプシロン株の「世界的封じ込め」の最終段階の入ったからでもある。ただ懸念されていることは、完全成功後は

「世界的な馬鹿騒ぎ」が起こるかもしれないと言われていることだ。

だが、私はそれは無いと思っている。何故なら、世間の人間はそう「馬鹿ではない」からだ。生物学はよくわからないが、ウプシロン株の後また別のものが発生することは、想像に難しい事ではない。


コロナウイルスのデルタ株が5年以上猛威をふるった後、速攻に進められたのが、将来的に発生するかもしれない

「若年層キラーウイルス」における研究だった。

高齢者、基礎疾患を持っている人、仕事と家庭が忙しい40代50代が犠牲となったコロナウイルス。

反対に若い人間が亡くなるようなことになると、世界的人口の激減になってしまう。このことに対し、大きな研究機関が数カ所出来て、採算度外視で研究を続けていた。しかしこの「採算度外視」が現在では世界中の命と生活、経済を守ることとなった。

 

 残念ながら、このウプシロン株での犠牲者はゼロではなかったが、

世界的大流行は抑えられ、現在に至っている。だが自分も注意はしている。発症から死亡に至るまでの期間があまりにも短く、初期の犠牲者の中には「結婚予定だった医師」もコロナウイルス同様いたのだ。

だからコンサートもここ数年リモートチケットのみで済ませている。


そんな人間が圧倒的多数派を占めている中、私はもう一度自分の能力の存在を掘り起こす事になった。


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