十三日目
第102話 お喋り係の午後(パルサ視点)
ミラージュドラゴンを祖とする由緒正しき
お喋り係っていうのは、要するにご主人と会話してリラックスしてもらう役目を持つ竜侍従のこと。
ただ、今はちょいとワケありで裏の役割に専念している。
お喋り係の裏の役割は、他人との会話を通していろんな情報を収集する諜報員。
今はメイド長じきじきの命令でエルメシア王国に数年前から獣人族として潜入中だ。
少し前まではシエりんの学友として彼女を監視していたのだけど、二週間ほど前……ウィスりんの呪いが解かれた日から“全能賢者”アーカンソーさんの調査を厳命された。
そして現在はシエリんに代理を任される流れに乗っかって『はじまりの旅団』に潜入を果たした……というわけだ。
ちなみに『王選候補者』であるシエりんのマークを外して良いのかメイド長に尋ねたところ『そんなことはもうどうだっていいからアーカンソーという人物を徹底的に調べろ』という旨のお返事をいただいた。
そういうわけで、今日も今日とてお勤めに励んでいる。
正直あっしとしては、お屋敷で奉仕修行をテキトーにこなしつつ、いずれどっかの金持ちのところに奉公に出て気楽に暮らしたいと思ってたんだけど……世の中はままならないものだ。
「ミーは魔法盗賊
さてさて場所は第二支部の酒場。
初顔合わせのセイエレムさんに設定どおりの自己紹介を終えたあっしは、とっておきのポーズをキメてみせた。
セイエレムさんは真顔で
「そうなんですか。僕はセイエレム・クレアータといいます。これからよろしくお願いします」
「セイエレムさん、塩っ! 圧倒的塩反応ニャ!」
歓迎してほしいとまではいわないまでも、なんのリアクションもしてもらえないと割とマジ泣きしたくなる……!
「すみませんね。あまりその手の冗談への対応は得意ではないもので」
「すまないパリサ。セイエレムは根が真面目なだけで、悪意はないんだ」
「お
あっしを値踏みするようにジッと観察した後、セイエレムさんは深く頷いた。
「では、最低限のメンバーが揃ったということですね。だいぶ時間が経ってしまいましたが、これから本格的に『はじまりの旅団』の活動を再開させていきましょう」
「ああ、そうだな。ようやく俺たちも再出発だ」
心から嬉しそうに笑うカルンさん。
「セイエレムさん、しばらく忙しかったみたいですけど……これからは大丈夫ニャ?」
「ええ……しばらく貧民街で起きた例の誘拐事件で対応に追われましてね。ようやく被害者全員への投薬が終わりました」
「それ、アーカンソーさんが解決したっていう例のあれニャね?」
「……ええ、そうです」
ん。このビミョーな間と目を伏せるような表情。
カルンさんの言ってたとおりセイエレムさんはアーカンソーさんに複雑な想いを
「アーカンソーにはますます差をつけらたな。これからは拡がっていく一方なんだろうが……俺たちは俺たちで頑張って行こう」
「ええ、そうですね」
朗らかに笑うカルンさんに頷き返しているものの……セイエレムさん、アーカンソーさんのことを思い出して心がざわついてるって感じかな?
なんというか、あんまり深堀りすると危険な気がするので今日はこれくらいにしておこう。
◇ ◇ ◇
「ふー……」
冒険を終えて宿に帰ってきた。
盗賊としての役目もそつなくこなし、魔法もシエりんほどじゃないけどちゃんとできたと思う。
それでもやっぱり『はじまりの旅団』のふたりはあっしから見ると充分に化け物である。
ついていくだけで精一杯だ。
「あー、マジしんど。メルるんの試作スイーツをつまみ食いできたあの頃に戻りてぇっス……」
下着一枚になってから、ベッドに倒れこむ。
天井を見上げてランプの明かりに手をすかした。
「ウィスりんとナタりん、今何してるかなぁ……」
こんな時に思い出すのはお屋敷にいた頃につるんでた悪友……
総長ウィスリー。
特攻隊長ナタリー。
そして舎弟のあっし。
お屋敷にいた頃はこの三人で散々暴れ回った。
壁にラクガキしたり、掃除用具を隠したり、対立グループのメイド服に細工をして全裸にしてやったり。
お世話係の監視を振り切ってお屋敷の抜け出してはダンジョン内のモンスターを倒しまくったりもしたっけ。
まあ、そんな連中だからチェルムパイセンからウィスりんが追い出されたと聞いたときは「そらそうなるわ」と思ったけど、どうやら相当にヤバイことをやらかしたらしく人化できない呪いをかけられていたらしい。
だけど今ではアーカンソーさんに呪いを解いてもらって楽しくやっているんだから、世の中わからないもんだ。
メルるんも一緒にお仕えしてるみたいだし、本当に
正直言って死ぬほど羨ましい。
あっしも素敵なご主人に仕えたい。
かわいいメイド服を着たい。
お仕事を褒められまくりたい。
そんで夜には可愛がってもらって、愛の結晶を
あっしだって人並みに憧れてるのになぁ。
そういえばナタりんの方は、まだお屋敷だろうか?
あの子は一度キレたら手が付けられないけど、普段は引っ込み思案だし保護欲をそそる顔立ちをしているから、いいご主人様に巡り合えば幸せになれるだろう。
それに比べて、あっしはなんなんだろ。
特定の誰か仕えるでもなく、ご主人との出会いもなさげな諜報員ライフ……。
あ、ちょっと涙出てきた。
強く生きるんだよパルサ。
めげるなー。
「また三人で一旗揚げたいっスねぇ……」
わかっている。
そんな未来はやってこない。
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