第92話 蠱惑蝶(レダ視点)

「フワルル。アーシ。ようやくこの日が来たわね!」

「うんうん! ようやくアーカンソー様にお近づき〜!」

「あんな小娘たちには負けないしー!」


 受付の行列に並びながら、わたしたちは奮起していた。

 最近あんまりアーカンソー様に相手にしてもらえない日々が続いてたけど、毎日のように口説いて存在感をアピールし続けた甲斐があった!

 ようやく苦労が報われる日が来たのだ。


「ところでさ。恋愛に関する協力ってなんだと思う?」


 わたしがわざとらしく期待をあおるようにささやくと、フワルルが顔が真っ赤になった。


「え〜、そんなの決まってるよ〜!」

「お持ち帰り的なサムシングっきゃないっしょ!」


 アーシの言うとおりだ。

 それしかありえない。


 クエストに協力したお礼として、アーカンソー様が求めた報酬はわたしたちのカラダ。

 全員仲良くテイクアウトというわけだ。


 他の男どもならいざしらず、あのアーカンソー様が相手だったらご褒美でしかない。


「おい、お前ら。アーカンソーさんとクエストに行くつもりか?」


 せっかくいい気分で乗ってたのに、面倒くさい幼馴染やつが絡んできた。


「あら、イッチー。ひょっとして止めに来たの?」

「そんなんじゃねぇよ。忠告に来ただけだ」

「忠告ー? 何よ、もっといい男がここにいるってアピりにきたわけ?」


 わたしがいつもの調子で軽口を叩く。

 このくらいはわたしとイッチーの間では軽いジャブのようなもの。

 イッチーがキレて悪態を吐き合うのが恒例のルーチンワーク。


 だけど、この日のイッチーは違った。

 本気でわたしたちを案じているかのように真剣な瞳を向けてくる。


「アーカンソーさんの人外っぷりは、お前らの想像してる以上だ。あの人に同行したら最後、もう二度と夢見らんなくなるぞ。覚悟はできてんのか?」


 ちょっと調子を狂わされて鼻白はなじろんだけど、わたしはなんとか肩をすくめてみせた。


「ふん。見くびらないでほしいわね。わたしたちはアンタたちとはが違うのよ」

「あたしたちが冒険者をやってるのは男漁りのため。別に実力差なんかで心折れたりしないよ〜」

「アーカンソー様に養ってもらえれば未来はバラ色。夢はでっかく玉の輿だし!」


 こんな話はイッチーには今更だろう。

 酒場でわたしたちがくだを巻いているときと同じ話題だ。

 十三支部にはロクな男がいないって話とセットで耳タコのはず。


 なのにイッチーは初めて聞いたかのように目を見開いて驚いていた。


「ああ、そうか。お前らはまだ、なんだな」

「は? なにそれ。見下してんの?」

「いや、悪かった。そんなつもりじゃねぇ」


 イッチーが手を上げて謝罪してきた。

 挑発にまったく乗ってこないイッチーにだんだんイライラしてくる。


「で、結局何が言いたいわけ?」


 わたしに詰め寄られるとイッチーは少し迷った様子を見せてから、首を振った。

 それから意を決したように口を開く。


「お前らが玉の輿に夢見るのも勝手だし、冒険者を腰掛けにするなって言えるほど俺もえらかねぇ。でも、敢えて言わせてもらう。あの人は俺やお前らみたいに住んじゃいねぇよ。だから……まあ、現実を勉強すると思って頑張ってこい。じゃあな」


 言いたいだけ言ってイッチーは去っていった。


「なんなのよ。あいつ、上から目線で……!」

「きっとレダがアーカンソー様に夢中だから嫉妬してるんだよ〜。かわいそかわいそだね〜」

「アーカンソー様に男のプライドをけちょんけちょんにされたんだし」


 確かにあいつはどれだけ聞いてもアーカンソー様との冒険内容を喋らなかった。

 連れのニーレンとサンゲルも「聞かないほうがいい」の一点張り。

 あんなの男のチャチなプライド守りたいだけだって思ってたけど、そうじゃないって言いたいわけ……?


「面白いじゃない」


 久々に燃えてきた。

 難攻不落の男を落とすことほど楽しい娯楽はない。

 

「適当なクエストでお茶を濁すつもりだったけど、気が変わった。本気で行くわよ」

「あは〜、レダちゃんやる気だね〜! デートクエスト仕掛けちゃう? ちゃう?」

「ケッへへへ、確かに最近は謹慎食らっててご無沙汰だったし! アーシは賛成!」


 十三支部は確かに底辺支部だ。

 だけど、それはただ単に弱い冒険者が拠点ホームにしてるからってだけが理由じゃない。


 。 


 何を隠そう、わたしたち『蠱惑蝶こわくちょう』は他の冒険者パーティに潜り込んで男を漁り、みつがせることに特化したパーティ。

 男女関係のもつれで解散させたパーティは数知れず。

 出禁になった支部は七つ! 十三支部の冒険者パーティの中でも最多記録だ。


『蠱惑蝶』のメンツは三人。

 “ショタ狩り神官”フワルル。

 “おじさんみつがせ戦士”アーシ。

 そして“彼氏盗賊”レダこと、わたし。


 そう。

 わたしたちが総出でかかって落とせない男冒険者なんて、いない!


「じゃあ決まりね。ご褒美を待つまでもないわ。クエストの間にアーカンソー様を落として『ごしゅなか』を解散に追い込むわよ!」



◆◆◆



 作者より


「ヒロインがビッチどもなんて!」って声が上がるかもしれないので念のために注意書きを残します。


 蠱惑蝶の三人はヒロインではないです。


 アーカンソーに無双される被害者(笑)です。


 ご査収ください。

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