その9

「さてと、敵も商船団から離れたから、追撃と行こうか」

 サリオはニヤリとしながらそう言った。


 サリオは、海賊との約束はなかったように振る舞っていた。


 まあ、向こうもそのつもりだろう。


 ところが、

「お待ちください、父上」

とエリオは間髪入れずにそう進言した。


「ああ、心配ない、商人達の怪我人の手当は周りにいる哨戒艦の連中に任せればいい」

 サリオはよく気が付くなあと思いながらそう言った。


 サリオ艦隊5隻の他に、海域ごとや艦隊周辺に哨戒艦と呼ばれる小型艦が配置されていた。


「いえ、父上。

 手当の方はこちらで、敵は哨戒艦に追わせましょう」

 エリオはサリオの意見を軽く吹き飛ばすようにきっぱりと言った。


 こちらも海賊との約束なんぞどうでもいいという態度だった。


 こうなると、親子してあくどいとしか言いようがない。


「いっ?!」

 サリオはエリオの言葉に驚いてしまった。


 そして、今度はその後の言葉が続かなかった。


 まるで親子の意思疎通が全く上手く言っていない典型的な事象を示しているようだった。


 上手く行っていないのに、お互い、エリオが良からぬ事を考えている事はよく分かった。


「エリオ様、それはどういう事でしょうか?」

 言葉が出てこないサリオの代わりに、オーイットが聞かざるを得なかった。


 この親子だけに任せていたら、話が進まないからだ。


「敵は西側に逃げていきました。

 我が艦隊と商船団は、進路を東に取っていましたので、襲撃は東側からだと思われます。

 そう考えると、矛盾が生じます。

 純粋な海賊行為かどうか背景を探る必要があると思われます」

 エリオはすらすらと説明した。


「!!!」

 今度はオーイットが黙ってしまった。


「西側に逃げたのは擬態かも知れないぞ」

 サリオは名誉挽回とばかりにエリオの盲点を指摘した。


「そうかも知れません」

 エリオはサリオの指摘をあっさりと認めた。


 あれ?


 拍子抜けした空気が一気に蔓延した。


「擬態なら擬態の方がいいのですよ、この場合。

 でも、擬態ではなかった場合、並びに、純粋な海賊行為ではなかった場合、あまり、好ましくない事態に成り得ます。

 それを探る為に、哨戒艦による追尾を提案しています」


 しーん!!


 エリオの説明は拍子抜けした空気をその分以上に緊張させるものだった。


「……」

 オーイットは無言でサリオを見て、決断を促した。


 もうこれ以上議論の必要のないという意思の表れだった。


「分かった、エリオの策に従おう」

 サリオは緊張した面持ちでそう決断を下した。


 揉めている雰囲気を察した水兵達も聞き耳を立てていた。


 そして、議論の行く末を見届けて、エリオに対する認識を大きく変わる切っ掛けになったのは言うまでもなかった。

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