その8

「伯父貴、海賊共が逃げて行っていますけど……」

 マナラックはゼイゼイと息を切らせながら、目の前の光景が信じられないようだった。


 砲撃音がした時、一緒に沈められる可能性も考えていた。


 だが、いくら待っても次の砲撃がなかった。


 なので、何が起きているのか、分からなかった。


 しかし、海賊達は、略奪しようとした金品を置いていき、逃げ出し始めた。


 そして、1人残らず、海賊達は船から去っていった。


 理由はよく分からないが、とにかく助かった事は確かだった。


 まあ、海賊達がいなくなったので、それは一目瞭然だった。


 だが、ついさっきまでは覚悟を決めていたので、いい意味で呆然としていた。


 助かったとはいえ、事態の急変に付いていけていないのは明らかだった。


「そのようだな……」

 クラセックは呼吸すら困難になったのか、その場にへたり込んでしまった。


 それを見て、マナラックは伯父の隣に座り込んだ。


 こちらも体力の限界という感じだった。


 と同時に、座り込む事によって、改めて助かったという実感が湧いてきた。


 2人とも力の限り、海賊達と戦っていた。


 しょっちゅう襲われる訳ではない。

 

 だが、襲われた時はやられる一方ではなく、クラセックら商人側も必死に抵抗し、今回のように戦う。


「すまないが、マナラック、怪我人の手当を最優先にと、皆に言ってくれないか……。

 情けない限りだが、歳のせいか、もう体が言う事を聞かないらしい」

 クラセックはようやく短く浅い呼吸が出来るようになった。


「分かりましたが、伯父貴の方は大丈夫ですか?

 怪我などはしていませんか?」

 マナラックは持っていた棍棒を杖代わりに、フラフラと立ち上がりながらそう言った。


「大丈夫、大丈夫。

 体力の限界を超えてしまっただけだ」

 クラセックはまだ息が整わず、座っている事さえ、困難になり、大の字になってしまった。


 マナラックは一瞬、びっくりしたが、息をしている事を確認して、安心した。


 そこに、船縁からドカドカという音がした。


 2人が何事かと確認すると、サリオ艦隊の水兵達が次々と乗り込んできていた。


「怪我人の手当を優先しろ!」

 リーダーらしき男がそう言うと、水兵達は散らばっていった。


 その光景を見たクラセックとマナラックは再び並んで甲板に座っていた。


 助けが来たので、もう安心だという瞬間だった。


「クライセン総旗艦艦隊のようですね」

 マナラックは掲げられている公爵旗を指差しながらそう言った。

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