その6
(取りあえず、逃げ切れるのは明白だな……)
エリオは机上の地図で、追撃してくる敵艦隊との位置関係からそう結論を出していた。
とは言え、ここからが難関だった。
(でも、どうしようか……)
エリオは平静を装いながら、隣のリ・リラを視界に入れないように努めていた。
リ・リラは曇りなき眼で、まあ、少なくともエリオにはそう感じていたのだが、その目でエリオを見つめていた。
当然、それによって、もの凄いプレッシャーを受けていた。
(殿下にもしもの事があったら取り返しが付かない!!)
エリオは悩んでいた。
リ・リラに何かあった場合、エリオも同じ運命を辿るだろう。
死なば諸共だ!
なので、その後の事なんて、死者には関係ない。
と言えれば、気楽なものなのだが、この娘に関しては、絶対にそうは行かない。
(それでは、陛下に申し訳が立たない)
エリオは頭を抱えたかったが、リ・リラにバレるので努めて、努めて平静を装った。
絶対頭が上がらない2人に対して、エリオが悩むのは尤もな事だった。
「エリオは、サリオの仇を討ちたいとは思わないの?」
リ・リラは突然そう聞いてきた。
「???」
エリオは思わぬ質問に言葉を失った。
エリオにとって、こんな時に聞く質問かといった感じだった。
だが、よくよく考えてみると、リ・リラの疑問は尤もな事である。
「だって、ハイゼル候は自分の父親の仇として、エリオに対しているのよね。
でも、サリオだって、同じ海戦で亡くなっているのだから、ハイゼル候は謂わば、仇になるわよね」
リ・リラは言葉を失っているエリオに補足説明を行った。
「ああ、そういう事ですか!」
エリオはリ・リラが何を言いたいのかを理解したので、晴れやかな表情になった。
「えっ……」
今度はリ・リラがちょっと引き気味になり、言葉を失っていた。
まあ、リ・リラにして見れば、ここは晴れやかな表情をする場面ではないだろうという事だろう。
「あ、でも、先のハイゼル候を討ったのは俺ではないですし、オヤジも現ハイゼル候に討たれた訳ではないので、仇というのもおかしなものですね」
エリオは何だかとんちんかんな事を言っていた。
「いやいや、そう言う事実関係を確認しているのではなく、何て言うか、そう、心情的なものでは仇という事になるのでは?」
リ・リラは思わぬ方向に話が進んでいったので、修正した。
「ああ、成る程、そうなるのですね……」
エリオはリ・リラの話に納得はしていたが、どうでもいい感がありありだった。
「……」
リ・リラはエリオの態度に再び絶句していた。
幼少の頃からの付き合いだが、結構こう言った齟齬が発生する。
「でも、まあ、我々は命のやり取りを行っている訳ですから、お互い様ですかね。
オヤジが、いや、オヤジだけではなく、仲間が亡くなるのは悲しい事ですが、復讐心に駆られる事はないですね。
むしろ、国を守ったり、残された家族を守る方が重要だと思いますよ」
エリオには珍しくしみじみとそう語った。
付け加えなかったが、クライセン家の惣領が戦死するのはそんなに珍しいことではない事をきちんと認識していた。
まあ、認識していたとは言え、サリオがあんなにあっさりと戦死するとは思ってはいなかった。
そして、親の仇討ちなんてせずに、国と一族をしっかり守ることを幼少の時から叩き込まれたいた。
尤も、エリオは、サリオより自分が早く戦死するのではないかと考えていた節もある。
なので、そんな家訓を実行する時が来るとは思っていなかったのだった。
皮肉なものだとエリオは感じていた。
「そう……」
今度のリ・リラは相槌を打つような形で、そう言った。
そして、久しぶりにエリオが頼もしく見えた。
まあ、これはエリオには内緒なので、口には出さなかった。
「おっほん」
マイルスターがわざとらしく咳払いをした。
そろそろ決断をしなくてはならない場面だったからだ。
エリオは舌打ちをしたかったが、心の中を見透かされると不味いのでしなかった。
勿論、リ・リラ対策だった。
まあ、このまま話を続けて、しれーっと戦場を離脱して、後でしこたま怒られるのも悪くないと思っていた。
だが、まあ、ここではっきりとした決断を下した方がいいのだろう。
エリオは敵艦隊の陣形を確認した。
そして、この後の推移を頭の中で想像した。
「全艦、戦闘準備!!」
エリオはそう決断を下した。
今回の戦いもまた主導権を握れないまま戦闘に突入する事になった。
- 艦隊配置 -
SR
RHRHRH
RHAHRH
RHRH K
EC
-┐
ス|
島|
-┘
EC:エリオ艦隊、AH:アリーフ艦隊
SR:サラサ艦隊、RH:ルドリフ艦隊、K:クラー部隊
---
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