その7
「よし、取り舵一杯!
敵艦隊の艦列が空いた部分に切り込むぞ」
エリオはタイミングを見計らって、そう言った。
クラー部隊は、エリオ艦隊の離脱を許すまいと無理に航行していた。
その為、艦列は縦一列になり、所々に隙が生じていた。
エリオはその隙を見逃さずに、一気に割り込み、分断を図る為に、転針した。
それに対して、クラー部隊は対応しようとする艦と対応できない艦が入り乱れてしまい、更に艦列を乱す結果となった。
そんな状況下、統一の取れた動きをするエリオ艦隊は敵艦隊との距離を一気に縮めた。
そして、敵艦隊をその射程距離に捕らえるのであった。
だが、すぐには砲撃は開始されなかった。
「全艦、敵3番艦に砲撃開始!」
エリオは一呼吸置いてから命令を下した。
その為、砲撃開始は敵の方が早かった。
ドッカン!!
ドッカン!!
そして、程なく双方の撃ち合いになった。
統制の取れたエリオ艦隊の砲撃は3番艦を吹き飛ばした。
だが、クラー部隊の砲撃は、エリオ艦隊を今一つ捕らえる事が出来ないでいた。
「続いて、4番艦、撃て!!」
エリオは次の命令を下した。
エリオの命令は至って単純で、近い艦から攻撃していくと言ったものだった。
水兵達は予想通りとばかりに、命令と同時に砲撃を始め、敵艦を吹き飛ばしていた。
クライセン艦隊が恐れられているのは、操船技術や砲撃技術がずば抜けているだけではなかった。
戦闘行動が効率的すぎるのである。
その粋を極めているのが、エリオ艦隊だった。
今回も敵の弱点となる箇所に、意図も簡単に切り込んでいた。
それにより、敵艦隊の行動が完全に抑え付けられていた。
- 艦隊配置 -
SR
RHRHRH
RHAHRH
RHRH KECK
-┐
ス|
島|
-┘
EC:エリオ艦隊、AH:アリーフ艦隊
SR:サラサ艦隊、RH:ルドリフ艦隊、K:クラー部隊
---
(不思議とエリオが頼もしく感じられる……)
リ・リラはエリオの指揮振りをぼーっとして見ていた。
初めて目の当たりにするエリオの指揮官としての才幹に、リ・リラは珍しく見取れていた。
素人であるリ・リラにも、エリオがこの戦場を支配している事が明白だったからだ。
しかし、接近するにつれ、敵の砲撃も正確になってきた。
ばっしゃーん!!
旗艦が至近弾を受けて、船体が揺さぶられた。
「えっ……」
リ・リラは視界が急に回転したのに、驚いた。
いや、そうではなく、揺さぶられた事により、リ・リラが転倒したのだった。
「大丈夫ですか?」
いつの間にか、エリオはリ・リラの体を支えていた。
リ・リラは視界がいつの間にか横になっているのに驚いていた。
何が起きているか、把握できていなかったが、幸い体はどこにも異常も痛みもなかった。
エリオはゆっくりとリ・リラを助け起こした。
そこで、リ・リラは転ぶ前にエリオに助けられた事を知った。
(わたくしの事、見てなかったわよね……)
リ・リラは不思議にそう思った。
傍らにいたエリオは指揮に夢中で、自分の存在は忘れ去られているようにリ・リラは感じていた。
だが、そうではなく、ちゃんと気に掛けてくれている事に、リ・リラは嬉しく感じた。
「この先、もっと揺れるので、よろしければ、捕まってて下さい」
エリオはニッコリと笑いながらそう言った。
らしくない言動だった。
少なくとも、リ・リラにはそう感じた。
「ええ……」
リ・リラは違和感を感じながらも、エリオの右腕にしがみついた。
違和感を感じてはいたが、嬉しさの方が勝ったのは明らかだった。
そして、懐かしさが込み上げてきていた。
「このまま突っ切るぞ!
打ち負かされるな!」
エリオは叱咤激励した。
ぴきっーん!!
あれ?と思える不思議な反応が水兵達から上がったことにリ・リラは感付いた。
普通なら、指揮官の叱咤激励に呼応するところだが、エリオ艦隊の場合は妙に緊張感が上がってしまう。
水兵達はエリオを敬愛していない訳ではない。
むしろ、ある種の畏敬の念を持っていた。
だが、度重なる無茶振りをされると、こういった関係になるのかも知れない。
まあ、エリオにとっては、決して無茶振りしているつもりはなく、艦隊の能力内の命令を下しているつもりだった。
しかし、傍目からみれば、十分に無茶振りしていると認定されている。
そして、この緊張感は、次に何の無茶振りが控えているのかという警戒によるものだった。
でも、まあ、今回は、どんな無茶振りが来るのかはある程度は予想できるのだが……。
とは言え、こういった関係がエリオ艦隊の強みにもなっていた。
「痛たたぁぁぁ……」
エリオは右腕につねられた感覚を受け、悲鳴を上げた。
勿論、リ・リラに思いっ切りつねられていたのだが。
しれっー……。
悲鳴を上げたエリオとは裏腹に、リ・リラは何の反応もしなかった。
「どうしたんですか?……」
エリオは戸惑いながら一応リ・リラに聞いてみた。
「なんとなく……」
リ・リラはちょっとむくれていた。
なんとなく、水兵達の気持ちが伝染していたのかも知れない。
「……」
エリオはいつもの反応に、いつも通り戸惑った。
そして、リ・リラの行為は、当然ながらライバル意識から来るものでもあった。
ただ、それに対して、水兵達はグッドサインを心の中で送った事は言うまでもない。
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