その2

 エリオ艦隊は無事スワンワリア法国の港町デウェルに入港した。


 そこから、陸路で法都ベロウに入る予定になっていた。


 この地には、大使としてローグ伯爵が赴任しており、その出迎えを受けた。


 そして、伯爵の部下に護衛されながらの移動となった。


 ただ、リ・リラが乗っている馬車の周りは、宮廷から随伴してきた女性だけの親衛隊とエリオ艦隊でも指折りの剣士達で固められていた。


 馬車の御者はシャルスが務め、リ・リラの席の前にはリーメイが座り、リ・リラの隣には所在なさげなエリオが座る事になった。


 事が起きた場合、いち早く艦隊に逃げ込む手筈は整えられていた。


 留守はマイルスターに指揮を委ねられていた。


 先程、所在なさげと書いたのは、リ・リラとリーメイは楽しく話しているのに、その輪にエリオが加われないと言った感じだったからだ。


 名誉ある役割に対して、エリオは未だに覇気のない表情をしていたので、リ・リラは頭に来ていた事は確かだった。


 だから、今回は抗議の意味を含めて、無視する事に決めていた。


 まあ、いつまで経っても覇気のない態度を取っているエリオに問題があるのだから致し方がないのだろう。


 ただ、エリオは元々覇気があるかというと問いに対しては、はっきり言ってないと答えが返ってくる人物なので、ちょっとかわいそうな気がする。


 前日までのエリオはそうだった事は否めないが、今のエリオは荒んだ気持ちでいた訳ではなかった。


 そう、銀髪の美少女の事が気になっていた。


 ただ、リ・リラもエリオの変化に気が付いていない訳ではなかった。


 切っ掛けまでは分からなかったが、何だか無性に腹が立った事だけは確かだった。


 それが今の無視に繋がっていた事は確かだった。


(兎に角、何だか、とっても、もの凄く、ムカつく!!)

 リ・リラはリーメイと笑いながらずうっとそう思っていた。


 勿論、表情には全く出さなかった。


 エリオはエリオで、その雰囲気を察していたので、恐ろしすぎてリ・リラの方を見られなかった。


 なので、移動中はずっと外を見ていた。


 ……。


(あれ?いつの間にか静かになった……)

 エリオは急に静寂が訪れたのに気が付いた。


 とん……。


 ふいに、右肩を叩かれた。


 そっちの方向はリ・リラがいる方向だ。


(!!!)

 エリオは恐怖のあまり全身硬直を起こしていた。


 だが、肩を叩かれたので、リ・リラを見なくてはならない。


 引きつった顔で、何とかそちら方向を見た。


(あれ?)

 エリオは驚いた。


 隣には天使がいた。


(どういう事?)

 あまりの事に、エリオの思考は停止状態に陥った。


 寝ている時も思考が停止しない時があるエリオにとって、珍しい事である。


 ま、特定条件下ではいつもそうなるのだが……。


「殿下、寝てしまわれましたわね」

 リーメイは小声でエリオにそう話し掛けた。


 そう、リ・リラはエリオの右肩を枕代わりに寝ていたのだった。


 聞き取れないような小さな寝息を立てていて、熟睡しているのではないかと言う感じだった。


 そして、その寝顔は何とも愛くるしい。


 普段、エリオを苛めている時とは雲泥の差だった。


「ふぅ……」

 エリオは大きな溜息をついた。


「どうなさたのですか?閣下」

 リーメイは笑いを堪えて、小声で聞いてきた。


 勿論、リ・リラを起こさないようにする為だった。


「あ、いや、ねぇ、殿下って、よく俺の前で寝てしまう事があるな……、なんて、思ってね」

 エリオは思わず本音を漏らしてしまった。


 リーメイはリ・リラの乳姉妹だったので、幼少の頃からよく顔を合わせていた仲だった。


 その分、気心が知れていた。


「そうですね、一番安心できる御仁だからではないでしょうか?」

 リーメイは含み笑いを浮かべていた。


「……」

 エリオはその言葉に何と答えていいか分からなかった。


(人畜無害だから?)

 エリオはそう思ったが、そう言うと笑われそうだったので、ここは敢えて何も言わなかった。


(朴念仁と言うより、感情面では幼いままですね、閣下は)

 リーメイもそれ以上は何も言わずに、ただただ笑顔でいただけだった。

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