その17

「ルドリフ艦隊、接近!」

 シャルスがそう報告してきた。


「閣下の予想通り、ホルディム艦隊を放っておいて、こちらに向かってきましたね」

 マイルスターはエリオの予測に感心していた。


「そうだね、予定通りプランAで行く事としよう」

 エリオはそう告げた。


「閣下、プランBもCも伺っていないのですが……」

 マイルスターは柔やかに苦笑いをしていた。


 エリオの癖としては、可能性が低い事に対しても検討はするものの、人には説明しないというものがあった。


 今回はその典型例かも知れない。


「他のプランはもう前提条件が崩れているので、説明しても意味がないさ」

 エリオは素っ気なくそう言った。


「……」

 マイルスターは、呆れながらもエリオの言葉に特に反論しなかった。


 まあ、何にしろ、無駄な事だと分かっていたからだ。


 とは言え、参謀として、現状はきちんと把握していた。


「総旗艦艦隊、アスウェル艦隊に連絡。

 当初の作戦通り、実行すると」

 エリオがそう言うと、シャルスは敬礼して伝令係に指示を出した。


 と同時に、シャルスは伝令係から伝令を受け取った。


「アスウェル艦隊より伝令。

 ルディラン艦隊はどうするかとの事です」

 シャルスから報告があった。


「うーん、そうだね。

 まずはルドリフ艦隊に集中しつつ、ルディラン艦隊に注意ってとこかな」

 エリオは軽い感じでそう答えた。


「それで、真意は伝わりますか?」

 シャルスは珍しく一応そう聞き返した。


「うん、大丈夫。

 男爵閣下は、ちゃんと周りが見えているようだから、それで通じる」

 エリオはまた軽い感じでそう言った。


 これは、こういう伝令をしてくる男爵に対する信頼の証でもあった。


 シャルスは敬礼すると、伝令係に指示を出した。


「問題は我が艦隊の方にありという事ですか?」

 マイルスターはいつもの柔らかい口調で本質を言い当てていた。


「うーん、そうだね、不安がない訳ではない。

 我が艦隊は初陣だからね」

 エリオは不安要素を吐き出してはいるが、表情はその逆だった。


 マイルスターも特に不安に駆られて言った訳ではなかった。


「まあ、訓練では期待以上の結果を出していたから、スムーズにいけるんじゃないかと思う」

 エリオはそう言うと微笑んでいた。


 これは決して脳天気な考えから来た言葉ではなかった。


 この艦隊に集められた兵員は、クライセン一族郎党の中でも最精鋭と呼べる者達だった。


 あ、いや、訓練で無理矢理、最精鋭にさせられたと言った方がいいだろう。


 元々のクライセン一族の郎党に加えて、海賊の掃討作戦の際に、許された元海賊達が多く加わっていた。


 その元海賊達は、死刑か猛訓練に耐えるかの選択肢を迫られていたからだ。


「まあ、一番の不安要素と言えば、俺自身かな」

 エリオはこの時ばかりは神妙な表情に変わっていた。


「なら、大丈夫でしょう」

 マイルスターは飛びっきりの笑顔でそう言った。


「……」

 エリオはマイルスターの言葉に固まってしまった。


 どう反応していいか分からなかったからだ。


「……煽てるなよ」

 更に一呼吸置いて、エリオはぼそっと言った。


 ……。


 それにより、更に微妙な空気が醸し出された。


「ルドリフ艦隊、射程圏に入ります」

 シャルスからそう報告が入った。


「全艦、全速前進!」

 エリオは真顔に戻って命令を下した。


 クライセン艦隊はようやく動き出した。

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