魔導書転生~転生したら古代超人類の魔導書でした~
結芽之綴喜
第1章 転生したら魔導書だった件
第1節 異世界転生お約束てんこ盛りセット
気づいたら、なにもない空間にいた。
──……ここは、どこだ……?
ぼんやりとした意識で、そんな思考を漏らす。
なにもない、というのは比喩表現ではない。
ただただ真っ白なだけの空間には、それこそ人影はおろか、建物の類も、それ以外の無機物だって存在しない。
なんなら僕自身の肉体だって存在しなかった。
──……えっと、僕はそれまでどうしていたんだっけ……?
記憶を探る。
確か、僕は学校から自宅へ帰宅する途中だった気がする。
その前日まで連日にわたって徹夜でWEB小説を読みふけっていた。
明日も学校があるとわかっているのに、面白くてやめられなくて、けっきょく睡眠時間が三時間とかそんな感じになるのも覚悟で何百話という話を読み切った。
WEB小説なのだから当たり前だが、投稿している人はプロじゃないわけで、でも、ああいう面白い小説を書く人を素人とかワナビとか言うのは間違っていると思う。
じゃあ、なんと評すかというと、そうだな、無償の奉仕として人々に超面白い物語を提供しているその気高さを讃えて〝ボランティア・ライター〟などはどうだろうか。
略してボライター。
うん、絶妙にダサいな。
えっと、ちょっと話が脱線したけど、そうだ、僕はそんな感じで睡眠時間を削りに削って、連日学校へ登校していて、ああ、それで限界だったのだろう。
朝から夕方までの辛い学校生活を乗り切り、ふらふらとした千鳥足で帰っていたところだ。
酔っ払いみたいになる程度には連日の徹夜というやつが効いていて。
ああ、そうだ。
そこで道路に飛び出た猫を見てしまったのだ。
猫。
別に猫好きとかじゃないけど、ほら、あれじゃん、車がビュンビュン行き交う道路に小動物なんて、そこから先の展開は言うまでもない感じじゃん?
普通だったら、うわ、危ないなあ、ぐらいにしか思わなかったのだが、連日の徹夜のせいか、あるいは読んでいたWEB小説に似たような場面があったからか。
気づいたら、僕は猫を助けるために飛び出していた。
道路の上とはいえ通行量もそこまで多くない場所だから、という油断もあった。
うん、だからまさかスピード違反級の速度で車が突っ込んでくるとは思わないよね。
しかもトラック……なんならスマホ片手のながら運転。
ヤバいっ! という思考はこのままだったら自分が轢かれる、というものか。
あるいは、猫が犠牲になる、というものだったのか。
もはや徹夜しまくっていた僕にはそこらへんの判別もつかなかったけど、一度走り出した手前、もはや足を止めるより猫を救い出して自分も駆け抜けてしまう方が早いような状態で。
だから走った僕は、ギリギリでその猫に手を届かせて。
ああ、そして猫を向こう側の歩道へと投げたんだ。
あとは、僕がそのまま猫を投げた方向と同じ場所に走り抜けるだけッ‼
なあんて、カッコつけて気合いを入れたら、足がもつれてしまったと言うオチである。
うん、まあ何度も言うように、ほら、僕って前日まで徹夜してたから。
結果、その後にグシャッ‼ みたいな音を聞いたのが僕の最期である。
グシャッ‼ だよ、グシャッ‼ あれはいまも耳に残っているけど、正直二度と同じ音を聞きたくないなあ、と思う程度には嫌な音だった。
うん、えっと、ああ、そうだ。つまりこういうことだ。
──僕は死んだのか……。
妙な納得感と共に僕は自分の現状を受け入れた。
──だとすると、ここは死後の世界? えっ、天国ってこんなに何もない場所なの?
《回答:いいえ、違います。ここは当機/【魔導書】の内部に設置された疑似霊子情報空間となります。そもそもあなたは両親よりも先に死んだのですから、行くならば天国ではなく、地獄となるのでは?》
なんか、いきなり声が響いた。
──お、お前はあの時の猫か⁉
WEB小説のお約束。
出来心で助けた動物が実は異世界の神様的存在で、自分を助けて死んでしまったけど、実は本来の予定外的な感じの死だから異世界に転生させてあげるねテヘペロ☆ってやつである。
いま、思うとあれって結構無責任だよな。
小説上じゃあ、いろいろと理屈つけているけど、そもそもじゃあ神様とか名乗れるぐらいの存在のくせしてなんで死ぬような体でうろついてんだ、とか。
異世界に転生してOKならどうして元の世界はダメなんだよ、とか。
冷静に考えると、そもそもお前が簡単に死ぬような体でうろついてんだからこっちも死んだんじゃねえか、という話である。
と、まあちょっと脱線したが、そんな感じの存在なのでは、と僕が予想してそう問いかけるも、しかし声の方が返してきたのはこんな感じの言葉だった。
《否定:当機/【魔導書】は一人称にもある通り【魔導書】であり、その正式名称を【叡智の魔導書】と呼称します。より正確には現在こうしてあなたとコンタクトを取っているのは、当機/【魔導書】の管理用人工人格である〈並列統合型管理人工魂魄〉となります》
なにやら、小難しい単語の羅列が襲ってきた。
──お、お前な! そうやって難しい単語を並べ立てたら格好良く聞こえると思ったら大間違いだぞ⁉ カッコいいなオイ!
《結論:バカではこいつ?》
大変不本意な結論である。
──い、いや。落ち着け、僕。そもそも僕は死んだはずだぞ? なのに、どうして意識があるんだ? そもそも【魔導書】ってっ?
《解説:【魔導書】とは一般に高次元にまで鍛え上げられた魔導回路を外部に抽出し、何等かの形で物理的存在として固定することで、一定の適性を持つ者に、強大な魔法を継承するための技法及びその技法によってつくられた魔道具全般の呼称となります》
──う、うん? えっと、やたら詳細で意味不明な解説ありがとう。でもね、チミ。どうして死んだはずの僕に意識があるのかって質問には答えていないんだけど……。
《返答:それを説明するには話が長くなりますが、よろしいでしょうか?》
──え、やだ。長いの面倒くさいから、三、四行ぐらいにまとめて。
《了承:当機/【魔導書】は、現在【魔神】の欠片──一般には魔晶石、またの名を千年魔石と呼ばれるそれから情報的な汚染を受けており、機能の大部分が不具合を起こしたので。それを解決するためあなたの魂を取り込んで機能を回復させます、以上》
本当に三、四行あたりにまとめたぞ!
具体的には書籍では三行、WEB上では四行当たりの長さだ!
──えっと。え? 僕の魂を取り込む???
とりあえず気になったことを質問すると、あろうことか声の奴──こいつ曰く【黎明の魔導書】なる名称らしい、その管理人工魂魄とかいうのが、こう告げてくる。
《肯定:あなたの魂を取り込み、当機/【魔導書】の失われた機能を取り戻します》
──えーと、ちなみに。僕には拒否権があるのでしょうか?
《返答:拒否権はあります。ただし、その場合は魂魄内の人格情報のみを破棄し、それ以外の要素を当機/【魔導書】が取り込ませていただきます。要するにリサイクルです》
──それって、事実上拒否権がねえのと同じじゃねえか⁉
たまらず絶叫する僕に、しかし管理人工魂魄の野郎は聞く耳を持たず。
《回答:野郎とは失礼な。しかしそれは肯定と言うことでよろしいですね? では、さっそく当機/【魔導書】の内部にあなたの魂魄を取り込む処置を開始します》
──え? ちょっ、待っ。
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