救世主

シイカ

救世主

空からたくさんの天使が降りてきた。

その数は、青い地球を羽で真っ白にしてしまうのではないかと私は思った。

人々は最初は感動していた。

天使が空からやってきた、私達は祝福されているんだ。

誰しもがそう思った。

しかし、降りてきた天使たちは綺麗な羽と……強力な武器を持っていた。

なぜか天使たちは『MAT M49』と呼ばれるサブマシンガン。

『サイガ12』と呼ばれるショットガン。

『ルガーMkⅡ』と呼ばれる拳銃など、地球で作られた武器で地球人を襲ってきたのだ。

銃だけではない、刃物、刀、弓矢といったものまで取り入れていた。

突如現れた天使の姿をした悪魔から逃げる日々が始まった。

人々も武器を持って立ち上がった。

突如として始まった世界が一丸となって天使と戦う時代がやってきた。

それから3年の月日が流れた。

人々はすっかり、この戦いになれてしまい、あたり前のように、武器を手にし、天使を躊躇なく殺すようになった。

羽が生えているからといっても見た目は人間のため、武器を振り上げるのに躊躇っていた。

今はゲームのモンスターを倒す感覚で戦っていた。

もちろん、自分の命も常に危険にさらされている。

2年前、誰かの発言でSNSが炎上した『これは命をかけたゲームなんだ』。

炎上主はすぐに特定された。

特定された日、炎上主は天使によって殺された。

この事件をきっかけに、一部で天使信仰が生まれた。

悪いことをした輩に罰を与える天使様として。

この三年で人々の血と天使の血が至るところにこびりついている地面、壁を見るのが平気なようになっていた。

慣れるというのは怖いことだと思いつつ、慣れなければ生きていけないこともあるのが戦いだとも思った。

私は、日課である愛用の『ブローニング・ハイパワー』の手入れをしながらそんなことを考えていた。

天使の数は減った。同じく人間の数も三年で半分に減った。

その中で自分が生き残っているのは不思議に思う。

ゾンビ映画だったら、真っ先に死ぬタイプの人間だと思っていたがこんなときばかり運がよかった。

天使が降りてきたときに拾った羽を私は瓶に入れ、大事に取ってある。

3年経つがその羽は綺麗さを維持していた。

この羽を持っているのが自分の自信であり、生きがいだった。

そのせいなのか私がいまでも生きているのは。

ある日、私が、久しぶりにその羽を瓶から出したとき羽が光を放っていた。

その光はあたたかく、私はどういうわけかその羽を口に含み飲み込んだ。

身体の中に新たな生命を宿したかのような、私はひとつの命を飲み込んだ。

そのとき、背中から強烈な痛みが走った。

私は床にのたうち回った。

背中が痛い、熱い、身体が焼ける。

床に傷がつくほど爪で引っ掻いた。

部屋中のモノを倒し、バケツに入れた水を頭からかぶったりと、とにかく痛みを和らげたく暴れまわった。

背中に生き物がいるのように何かがうごめいている。

そして、背中を突き破るように何かが飛び出した。

それは、血と油にまみれた翼だった。

窓から入る陽の光は私の新たな誕生を祝福しているかのように照らしていた。

羽は思ったよりも重く、姿見に辿り着くのにずいぶんと時間がかかった。

姿見には痛みで暴れたときの傷が思ったよりも深かったらしく、爪は剥がれ、腕は痣だらけになっていた。

肝心の羽は身体の半分の大きさはあり「これで空を飛ぶのか」と少し嬉しくなった。

シャワーで身体を洗うも、羽の手入れが大変だった。

羽にシャワーをあてがうも血と油が完全に沁み込んでしまっているらしく、血が落ちることは無かった。

赤い羽を手に入れてしまった自分は天使になってしまったのだろうか。

赤い羽の天使を自分は見たことも聞いたこともない。

日中でもカーテンを閉め、家の中だが、常に護身用の銃を持って生活した。

天使対策用にと備蓄は豊富にあったのが幸いであったが、いつまで持つかわからない。

そう思っていたが、羽が生えてから腹が減るという感覚がなくなった。

だが、食事は日課として[[rb:行 > おこな]]った。

ある日、家のチャイムがなった。

警察か過激派か天使か。

不思議なことに私は無警戒で扉を開けた。

そこには、厚手のコートを着た、背の高い青年が立っていた。

「キミが赤い羽を持つ者だね」

と、青年は言った。

「ボクは天使だ」

家に入り、青年がコートを脱ぐと、美しい翼が生えていた。

「キミは選ばれたよ」

青年は私の赤い羽を触りながら言った。

何に選ばれたのだろう。

「キミが人類の中心だ」

私は青年の言葉がわからなかった。

「キミと同じように、天使の羽に魅入られ、飲み込んだ者は何人もいたが、激痛に耐えられず皆死に絶えた。キミだけだよ。人間から天使になれた人間は」

やはり、私は歪ながら天使になってしまっていたらしい。

「キミは僕たち天使の救世主になるんだ」

救世主。天使が救世主を求めるのか。

「天使は所詮、仕えるものだからね」

なぜ、地球を狙ってきた。

「知的生物が一番いたからさ」

こんな愚かな人類がか。

「キミたちは悲観的なのか、わざわざ自分たちは愚かだと言うね。実際は違うよ。最も発達している惑星は地球なんだ」

それと、殺戮となんの関係がある。

「キミたちが危険であるとの神からの命令だからさ。武器はわざと人類が編み出したモノに似せたんだ。人間たちはこんなに凄いモノを作ったと教えるためにね」

そうか……。

「納得するのはやいね。でも、理解がはやいのは好きだ」

私は神を信じる人間だった。

今は天使だ。

その言葉を信じる。

「なるほど」

私は何をしたら良い?

「キミは天使と人間、どちらを救いたい?」

どちらも救いたいという考えはダメなのか?

「面白い考えだね。それは、人間だった自分と天使の今だから思い付くこと?」

そうかもしれない。

「人類を救う方法はキミが死ぬこと。天使を救う方法はこの矢で自分の心臓を貫くこと。どちらもキミが死ぬことになる」

なぜ、私が救世主なんだ。

「赤い羽を持つ者が救世主なんだ。それはキミしかいない」

わかった。

私は迷いなく自らの銃で心臓を打ち抜いた。。

痛みはなかった。

死の間際、青年の声が聴こえた。

「これで人類は救われました。あなたのおかげです。天使はこれから天へと戻ります」

よかった……。人類はこれで救われた……。


そうして人類は永遠の眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

救世主 シイカ @shiita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ