夏の氷菓は

彼方のカナタ

夏の氷菓は

夏。

夏は暑いと言っても今年は去年までと比べても段違いに暑い。

こんな年にはいつも思い出してしまう。あの頃の【僕/私】を。



夏は暑いと言っても今年は去年までと比べても段違いに暑い。

けれども、【僕/私】の心は凍っていた。



いつ頃からだろうか。忘れてしまったがもう何年も【僕/私】の心は氷に覆われ、それには所々氷針が刺さっている。


高校ニ年の7月、自らの心のせいだろうか未だ友人と呼べるものはとても少ない。

後2週間程で二度目の夏休みに入る。まだ暑さのピークは遠いがそれでも【僕/私】の心に根を張る氷を溶かす事は出来ないだろう。


かつて、氷の女王とまで呼ばれたある女子によって心を凍らされた時から、その氷は心を蝕み、芯から冷やしている。

自分でも分かっていた。人の心によって傷つけられたものは他の人の心でしか癒せないと。例え何かにあたってもどれだけ喜ばしい事があっても氷の表面には殆ど変化は起こらない。電子レンジで氷を温めても意味がないように。


今日も学校ヘそして家へ。


このまま【僕/私】は老いて死ぬのだろうか。それとも、夏の太陽のように暖かくそれ以上に熱い心の持ち主がこの呪いを溶いてくれるのだろうか。

今日もまた変わらず独りで一層【僕/私】の心を冷ましている。


やはり【僕/私】の心の氷を溶かす者は現れず9月になった。暑さのピークも過ぎ秋が始まる。しかしまだ秋が夏の暑さを引きずっていた。

最近【僕/私】に話しかけて来る不思議な人がいる。1ヶ月前くらいの出校日に始めて【彼/彼女】の名前を知った。夏野 陽という名前だった。こんな自分と話がしたいだなんておかしな人だと思った。以前それを【彼/彼女】に言ってみたら、【彼/彼女】は「君こそそのおかしな人じゃない?まるで暑い夏に冷蔵庫から出されて溶けそうになっている氷菓みたいに。『可笑しい』+『お菓子い』で」なんて言われてしまった。

その時【彼/彼女】の言った意味が理解することが出来なかった。【僕/私】は可笑しいいや、お菓子い?それも氷菓が溶けそう、ね。当時心当たりは無かったが周囲の人からは「最近雰囲気変わったね。」とよく言われた。

確かに【彼/彼女】と過ごす時間は楽しいと感じていた。それにその頃からは人との交流も増えた。だがやはり一欠片の恐怖と残る氷が心の底から楽しむ事を妨げていた。




そんな風に過ごすうちに溶けるほど易しい氷ではないため多くの時間、また大きなきっかけが必要だった。

決して順調とは言えず多くの人に迷惑をかけたがそれでも今こんなにも楽しく忙しくても明るく過ごして居られるのは【彼/彼女】のお陰である。




【僕/私】は今、高校の教師となり数学を教えている。あの頃、現代文や古文漢文は人の心に触れるものだから、というくだらないそして根拠もない理由によって避けていた。

そして、絶対的なものであり揺らがない数字に魅了され数学に没頭したことがあったので得意になり、続けている。また、生徒相談室というものを設け小さな悩みから大きな悩みまでよく聴き対応している。そして、この話もすることがある。意外と好評だとかそうでないとか噂でよく聞くが物事を憶測で語ってはいけないと思い直す。


あの頃の【僕/私】のように心に傷を負っている生徒が増えないように増やさないようにそして、自殺等という行為に走らないように。【僕/私】は『夏野』という苗字の人に助けられた。あの温かいそして熱い太陽に。だから【僕/私】は【彼/彼女】のような人になる。そんな決意よく聞くとか言われたとしても、これは【僕/私】の意志だ。

同時に『夏野』を名乗る者として今それが使命とさえも感じる。

だから、【僕/私】はこの生活を止めない上、悲しき道を歩む者を減らしていく。

あの時からこれまでそうしてきた。これからもそうして生きていく。


夏の氷菓は…

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