11 ポイ捨てした女

 俺は自宅を出た。


 学校までの道のりを、悪魔Aとともに歩く。

 といっても、悪魔Aは厳密には『歩いて』いるのではなく、わずかに宙に浮いていた。


『それって魔法の類なのか?』


 俺は念話で話しかけた。


 悪魔Aの姿は俺以外には見えないから、普通に声を出して話したら、周囲には俺が独り言を言っているように見えるだろう。


 奇異の目で見られるだろうから、それを避けるために、人目のある場所では念話で話すことにしたのだ。


『そうだ。初級の浮遊魔法だな』


 答える悪魔A。


『便利だな……俺にも使えないのか、それ』

『涼介は人間だろう。基本的に魔法を使えるのは神や悪魔の眷属だけだ』


 悪魔Aが言った。


 なんだ、残念。

 ため息をついた、そのとき。


 からんっ。


 金属音が響いた。


「ポイ捨てか……」


 俺は前方の通行人をにらんだ。


 三十歳前後くらいの女が飲んでいたジュースの缶を道端に放り捨てたのだ。


 マナー最低だな、こいつ。。


「殺すか」


 時限式のスキルを発動すれば、俺がいない場所で勝手に死んでくれるだろう。


『……待てよ。お前たち悪魔が直接手を下して、あいつを殺すことはできるのか?』

『「殺す」ことはできない。ある程度の「干渉」は可能だが』


 悪魔Aが答えた。


 ちなみに俺の傍には『証拠の隠滅』担当であるAと、『護衛』担当であるBが左右に付き従っている状態だ。


 残る『能力者の調査』担当のCは俺から離れて、町の周辺を見回っている。


 能力者らしき者や、そいつが起こした事件などの痕跡を見つけたら、俺のところまで報告に戻ってくる手はずだが、基本的には俺から離れての行動になる。


 俺はあらためて彼女を見つめた。

 ちょうどこっちに向かって歩いてくる。


 セミロングの黒髪に眼鏡、地味な印象の顔立ちだ。


「……けっこういい体してるし、色っぽいな」


 地味な印象とエロい体つきとのギャップがそそる。


「――?」


 彼女が俺に視線を向けた。

 今の言葉が聞こえたんだろうか。


 聞こえたなら、明らかなセクハラとして認識するだろうな。


「……ちっ」


 案の定、不快そうな顔で舌打ちされた。


 ――ちょっとムカついた。


 同時に、こいつを服従させてみたくなった。


 ベッドの上で、な。


「しばらく『飼って』やるか」


 すれ違いざまに、彼女の肩に軽く触れる。


「【強制】モード発動」


 俺は彼女を自分の奴隷に変えるべく、一つの命令を与える――。




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