5 片桐文香2(文香視点)


「あの子……なんらかの『力』を持っているのね」


 片桐文香は小さくつぶやいた。


 まさか、こんなところで能力者に出会うとは思わなかった。

 もともとは性欲を満たすために、年下の高校生をセフレにしようと思っただけなのだ。


 顔は悪くない。

 性格も……明るくはないが、どこか冷めていて、退廃的な雰囲気も嫌いではなかった。


 セックスの方は――実際に寝てみないと分からない。


『彼から大きな力を感じる。深入りは禁物だよ、文香』


 スマホにそんな文字が浮かぶ。


 文香に『力』を授けた存在からのメッセージだ。


 先ほどもスマホに警告のメッセージが浮かび、それを見た文香は『急用ができた』と断って、その場を離れたのだ。


 東雲涼介。

 いったい、どんな力を持っているのだろうか。


 人に『力』を与える超存在――。

 それは大別して四種存在するという。


 もっとも強力で、至高の存在といえる『神』。

 その神のしもべで人間の一番の味方と言われる『天使』。

 神の敵対者たる『竜』。

 同じく神の敵対者であり、現在は封印されているという『悪魔』。


「分かってるわ、氷嵐竜ウォルバーゼ……でも、ちょっとくらい味見したいじゃない」

『あいかわらず性欲過多。見た目は清楚なのに』

「エッチなことに興味津々なお年頃なのよ」


 文香が微笑んだ。


「とりあえず――様子見かな」


 ヴンッ。


 彼女の目の前に赤い光球が出現する。

 大きさはピンポン玉ほど。


 それはすぐに目立たないように光を弱めながら、空中を進んでいく。


「『氷竜眼ひょうりゅうがん』――彼を見張ってね」


 つぶやいて、文香はふたたびスマホをいじり出した。


「じゃあ、ここからはお楽しみタイムね」


 セフレの一人と通話し、待ち合わせの約束をする。


「あームラムラしてきたっ」

『そういうことを公衆の面前で言わない』

「……もう、小言が多いわね、ウォルバーゼは」


 言いながら、文香の口元に淫蕩な笑みが浮かぶ。


 これから思う存分、セフレとの一夜を楽しもう――。

 彼女の下腹部は早くも妖しい熱を宿し始めた。



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