元男のトラブルstory〜♀

Rod-ルーズ

第1話 女の子になりました♀

『お、おれ女の子になってる…』


ラノベでも漫画でも好きなシーンってのは共通していたりする。たとえば、主人公の師匠が登場するのは展開を見ると胸が熱くなるし、黒幕がライバルや失踪した主人公の父親というパターンも同じくらい心が躍るだろう。

そんな展開の中で、黒瀬奏(かなで)が1番好きなシーンといえば、主人公の男が性転換するシーン、いわゆる女体化というものが大好きだった。


何かしらの能力や、発明品の不手際で巻き込まれた時に起こるシーンなどパターンに関しては尽きないだろうが、可愛い女の子になってしまう姿というのは何故か引き込まれる。

もちろん、俺自身にそういった趣味があるわけじゃ無いし女装とかもしない。


只、『もし俺が女の子になったらどうなるんだろう』とは想像したことは何度もあった。もちろん、口には出さないようにしていたがきっと姉や妹のような容姿になるのだろう。


「一度でも体験してみたいものだわ…」


叶うはずのない願いを呟きラノベに栞を入れて本棚に戻す。消灯すれば月明かりが部屋を照らして、幻想的に見えるが部屋の中のものがそれを感じさせない。

男の部屋という趣味一辺倒な部屋から女子のような部屋に変わったら何が消えるのだろうか。


(続きは明日考えよう…)


目を閉じて眠りにつく。5月の夜は寝るのには最適なものだった


⭐︎⭐︎⭐︎


「…なんで女の子になってるんだ…」


普段より低い視線、起きてすぐに感じた胸の重み。そしてあくびを出した時に出た普段より甲高い声。一瞬風邪かと思ったが、スマホのアラームを止めようとした時に映った自分の姿に一瞬で理解した。


「漫画みたいなことが起こるとは…でもどうして?」


ここからよくある展開としては、女体化した主人公は大慌てで部屋から飛び出したり、部屋を物色したり家族に見つかって朝から大慌てというパターンが定番だろう。

けれど、どうしてか俺のメンタルは落ち着いていてとりあえずピンク色のパジャマを脱ぎ、制服へ着替えていた。


(どうしてこんなに落ち着いているのか分からん…本の読みすぎか?)


元から望んでいた夢が叶ったことがキッカケだろうか。

真意は分からない。とりあえず、寝巻きのままではいけないので制服である青のチェック柄のスカートを履いた。

スカートや下着を着けても一切、興奮はしない。ただの日常に感じるからだろうか、衣替え用の白の夏用ベストを着て一階に降りる。キッチンでは母が朝食を作っており俺含めた子供たち3人分の朝食が置いてあった。


「おはよー、母さん」


「ん、奏はいつも早いわね。おはよう。冷めちゃうから早めに食べちゃいなさい」


席に着きトーストにジャムを塗る。ブルーベリーの甘い香りが食欲を誘ってかぶりついた。


「真依と真央はまだ起きないのかしら、もう7時なのに」


「姉さんは大学だし、お昼からなんじゃない?真央は…寝坊」


そんな話をしていると上からドタドタと降りてくる音が聞こえて来る、この慌てようは妹の真央だろう。


「うわ!ヤバいよ!起きれてよかっ……だれ?」


「え、奏だけど」


ドサッと肩に掛けたトートバッグを床に落とす。まるであり得ないことを目撃したような表情で俺のことをマジマジと見つめる。そして、モチモチの頬を2〜3発叩いた後、またこちらを凝視した。


「え、、、え!?ど、どうゆう事なの!?」


(マジか‥.共通認識じゃないか…)


俺は当初、俺の性別は女性という認識が共有されていて女性としての性を謳歌するのかと思っていた。けれど真央の様子を見るにこの認識は間違っていて、「認識している人とされていない人」に分けられているらしい。


「お兄ちゃんはどこなの…?」


「…お兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんだよ〜」


朝から驚きっぱなしな真央の朝食はいつの間にか冷め切ってしまっていた。


⭐︎⭐︎⭐︎


「っていう事で朝起きていたら女の子になっていたわけね」


「そうゆう事、理解してくれた?」


「無理やり理解しようと落とし込んだ…だって今のお兄ちゃん女の子だし」


先程は、とりあえず真央を落ち着かせる事に必死で、食事と身支度を済ませた後に話をしようと考え、登校中にことの経緯を話した。


前兆は何もなかった、起きたら突然性別が入れ替わっていた

母さんは俺が男だったという思い出はない、メイクなどはやった事が無いはずなのに記憶にあるなど…


数時間しかなかったのにここまで濃密なものだと思いもしなかった。真央は俺の話に途中、頭を傾ける様子があるもしっかりと最後まで話を聞き何とか落とし込んだ。こういったところが妹の頭の良さだろう。


「学校いったら気づいてる人とかいるのかな、もしそうだったらトラブルになりそう」


「だよなぁ〜意外な奴とかが俺が男だったということを知ってる可能性あるし」


学校だったら、下手したら悪い方向に向かっていく可能性だってある。全員がいいやつとは限らないしこんな漫画のような展開を信じる人が果たしているだろうか。

特に彼女である雫は、信じないかもしれない。パニックに陥らない事を祈るばかりだ。


「とりあえず、なんとかなるでしょ。悪いことは考えない方がいい」


「お兄ちゃん…お姉ちゃんか、そのポジティブが羨ましいよ」


⭐︎⭐︎⭐︎


真央と別れて、自転車を漕いで15分。

俺の通う都立 中ノ花高校についた。時刻は8時10分、この時間帯になると登校してくる生徒が多く、部活の先輩後輩やクラスメイト、担任の顔もちらほら見かけるようになる。

皆、俺が女の子になった事を驚くだろうか。もしかしたら母さんの例もあるかもしれない、とりあえず声を掛け様子を伺っていった。


「まさか、皆の俺の認識は女子高生だったとはね…母さんパターンか」


クラスメイトの男子に声をかけてみると、普段と同じような表情で挨拶を仕返される、女子のメンツでも同様の反応で誰も元男だという認識は無いようだった。


(とりあえず真央と姉ちゃんぐらいなのかなぁ?これなら大きな問題にもならないかも)


とりあえず安心した、とりあえず元に戻るまで女子高生としての性を謳歌しよう。彼氏とかも作って青春を…なんて思っていると1つ疑問が浮かび上がってきた。


「あれ、雫はどうなっているんだろう…」


一つ歳上の先輩であり、彼女でもある宮守雫

ハリのある体で出るものはキチンと出ており、首までかかる髪を短く纏めている自慢の彼女だが、彼女との関係性は今どうなっているのだろうか。


(もしかしたら彼氏になってたりして…)


きっとイケメンで体格もいい男子になっているだろう。そんな期待を持ちつつ靴を履き替えいると後ろから声をかけられた。


「あの…そこの下駄箱は男子の下駄箱なんだけど…」


「雫?俺だよー、奏だよ」


「………は?」


この世界の彼女は彼女のままで、もう1人男の俺を知っている人が存在していた。

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