第22話
「勝負には勝ちと負けしかないからな、認めてやるぜ……痛て……」
「流石に急所ならば頑丈にするにも限度があると思ってやったが、予想通りじゃったの」
「そうだぜ、あたた……俺じゃなくちゃ間違いなく死んでたっつうの」
大男は自分のことをディギンと名乗った、勝負が終わってから始めて男が工房の主であるということがわかったわけだ。正直いさんでいた感は否めない。
「で、剣は売ってくれるのかの?」
「当たり前だろ、俺は言ったことは守る。言ってねぇ約束とかは結構破るけどな」
「それは誠実なのか不誠実なのか、判断に困るところじゃのう……」
痛い痛いと繰り返しながらもディギンは普通に立ち上がり、若干がに股になりながら歩き出した。
そのタフネスを見て、やはり一撃で決めに行かねばわしが負けとったなと述懐するディル。
二人は行きよりも少しだけ距離を近付けて、工房の中へ入っていく。
「わわっ⁉」
「おいこらレイ、お前あそこで待ってろって言ってただろうが‼」
「す、すいません‼ でも親方が心配だったので‼」
「ったく、いいから適当に支度しとけ‼ 俺が戻ってくる前には打ち込めるように用意しとけよ‼」
「は、はいっ‼」
レイと呼ばれていた男の子はぴゅぴゅーっと飛ぶように走っていってしまった、今度こそ言われた通りのことをこなすつもりなのだろう。
「ディギンは、どうしてあの子にあれほど強くあたるんじゃ? あんな言われ方をしていては、伸びるものも伸びないと思うんじゃが」
「いや、俺だって言わずに済むならそうしてぇが………そうもいかねぇんだよ」
レイの背中を見ていた彼の目には、優しさがあったように思えた。やはり、ちょっとばかし盲目が過ぎたの、と少し反省するジジイ。
「あいつが今月だけで壊した剣、何本かわかるか? 十本だぞ十本‼ 俺の店はただでさえ客が少ねぇってのに、あいつが出来たもんかたっぱしからぶっ壊したり炉にぶちこんで再度熱したりしちまうせいで、俺の店は完全に商売あがったりなんだよ‼」
どうやらあのレイ少年は、物覚えが悪いなどという言葉では片付けられないほどに使えない徒弟であるらしかった。剣を安く売ったり、逆に高値で売りすぎて常連が消えてしまったり……そういった少年のやらかしエピソードは、枚挙に暇がなかった。
「あ、あいつのせいで俺の生活はいつもギリギリなんだ。借金しなくて済んでるのが不思議なくらいによぉ。そりゃ厳しくもなるだろうがよぉ‼ じいさんにわかんのかよ、裏で徒弟に乱暴働いている男って噂されてる俺の気持ちがよぉ‼」
話しているうちに堰が切れたようになり、地面にうずくまりながらディギンはだんだんと床を拳で殴っていた。どうやら彼がしているのは鬱憤晴らしとかではなく、純粋な注意であるようである。若干語気が強いのは否めないが、何度も何度も同じミスを繰り返さればそうなることもあるだろう。
男泣きすらせずに床を殴りながら号泣しているディギンを見るジジイ。あ、わし間違っとったわ。そう素直に認めざるをえないほどに、彼の背中には哀愁が漂っていた。
「金的してすまんかったの。わしでよければ常連になるから」
「ほ、本当か⁉ 俺もう、ごみ漁りしなくても大丈夫か⁉」
「大丈夫なように必死で武器を使って買わせてもらおう……というか、そんなことしとったのかい。冒険者をやり直せば鍛冶屋なんぞより稼げるだろうに」
「俺は鍜冶師として生きると決めた、そんなことできるもんか‼」
「ゴミを漁るくらいなら、矜持を曲げた方がいいと思うけどのぉ……」
どうやら相当悲惨な暮らしを、それも大部分はレイのせいで送らざるを得なくなっているらしいディギン。
だがレイのことを詰る彼の顔には、出来損ないの息子を愛情を込めて馬鹿にする親父のような、そんな気配があった。
わしめっちゃ早まったっぽいけど……まぁ、良い鍜冶師と知り合えたしよしとするかの。
ジジイはせめて二食をしっかり食べられるくらいにはこの工房にお金を落とそうと決め、再度商品の陳列してある部屋へと向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます