いろいろずれてる図玲君

クロノパーカー

第1話 大貴族 図玲

俺は前々から思っている事があった。

この世は矛盾していることが多いことだ。


図玲はかれい様、起きてください」

昨日の夜から睡魔に負け寝ていた俺に声をかける女が一人。

いや…

「図玲様、早く起きないと遅刻するぞ」

二人。女特有の男よりも高い声に対して俺は返答する。

「まだ眠い。もう少し寝かせろ」

仰向けで寝ていた俺は逃げるように二人の反対方向へ寝転がる。

「早く起きないと本当に遅刻しますよ」

一人がそう言って俺がかぶっていた布団を取り上げる。部屋の少し冷えた空気が体を包み始める。寒い。

「ホント、早く起きないと殴ってでも起こすぞ」

もう一人が俺の上に馬乗りになってくる。人一人が体に乗るので重い。

「…あーもう。分かった、起きる。起きるからどいてくれ」

「お、ようやく起きるか」

俺に乗っていた一人は降りて離れる。

起きると言った以上起きなければ。また寝ようとすれば次こそ殴られるだろう。

そう思い目を開ける。窓から入る朝日が部屋を照らしている。

重い体を起き上がらせ俺を起こした二人の方へ向く。そこにはメイド姿の女二人がいる。

その二人に対して最初に出した言葉は

「お前ら、一旦そこに座れ」

「分かりました」「あいよ」

俺の言葉を聞いた二人は素直に従い、床に正座する。そうして一人の方へ向く。

「まずは珠莉じゅり。起こしてくれるのはありがたいが冬に布団を足らないでくれ。寒い」

「でもそうしないと図玲様起きませんよね」

あながち間違いではないので反論できない。なので俺はもう一人の方へ向く。

六紗りくしゃ。起こしてくれるのはいいが俺に乗るな。重い。それと主人を脅すな」

「私は重くない!ていうか、図玲様脅さないと起きてくれないじゃん」

こちらも間違いではないので反論できない。

「…はぁ~、まぁいい。二人とも朝飯だ。行くぞ」

「逃げましたね」「逃げたな」

反論が出来なくて諦めた俺は部屋を出るためドアに向かう。

後ろから何か聞こえてくるが気にするな。


珠莉じゅり。俺の専属メイドの一人。父上の方についているメイド長の娘。生まれた時から一緒にいる。六紗とは血は繋がっていないが姉妹のように仲が良い。六紗より早く生まれおとなしい性格。髪色は紺。

六紗りくしゃ。俺の専属メイドの一人。俺の方についているメイド長の娘。生まれた時から一緒にいる。珠莉とは血は繋がってはいないが姉妹のように仲が良い。珠莉より後に生まれ少し雑な性格。髪色は金。


『おはようございます、図玲様。』

眠い目を擦りながら食堂のドアを開ける。するとたくさんのメイドが挨拶をしてきた。

「うい、おはようさん」

そんな皆に軽く挨拶して飯が用意された席に座る。見慣れた光景だ。

「では、図玲様。また後で」

「朝食とって部屋戻っても寝るなよ」

「分かってらい。後でな」

俺が席に座ると一緒にいた珠莉と六紗はそう言って離れた。

「おはようございます、図玲様。調子はどうでしょうか?」

俺が食べ始めると一人のメイドが話しかけてきた。

「あぁ、メイド長、おはようさん。調子か…まぁ普通だな。ただ眠い」

話しかけてきたのは六紗の母親でもあり俺のメイド達を束ねるメイド長であった。

「なるほど、ならば大丈夫そうですね」

「そうだ、母上と父上、あと愁那しゅうなは?」

食卓に姿を見せない家族について聞いてみた。

「お母様とお父様ならば既に仕事へ向かわれました。妹様はまだ寝ておられると思います」

「愁那はまだ寝ているのか…中等部って高等部よりも登校時間が早くなかったか?」

「そうでございますが、本日中等部はお休みでございます」

そうだっけか?中等部の頃の記憶はないな。

そんな感じで朝飯を食べながら今日の予定を伝えられたりして飯を食べ終える。

「ごっそさん」

食べ終わったことをメイド長に伝えるとメイド長は周りのメイドたちに呼びかける。するとすぐさま周りにいたメイドたちが食器を片付けていく。

俺は食器が片付けられてから席を立ちあがる。

「着替えを手伝わせましょうか?」

「いや、いい。一人で出来るさ」

席から立った俺にメイド長はそう聞いてきた。もう十七歳にもなって一人で着替えられないと思われているのか…まぁ一応メイドとしての仕事の内に含まれているのであろうから仕方ないか。

「図玲様、あの二人は大丈夫でしょうか?」

俺が食堂のドアに手をかけるとメイド長にそう質問された。

「二人っていうのは、珠莉と六紗の事か?」

「そうです、あの二人、何か迷惑をかけておりませんか?」

そう言われ、少し考える。

頭に思い浮かんだのは朝の出来事だ。しかしながらやり方はどうであれ仕事はしっかりこなしているので問題はない。もしここで迷惑に思っているとかをメイド長に言えば解雇ということはないが怒られるだろう。そんなことを主人である俺の個人的理由でいうのも情けない。

だから俺は

「問題ない。あの二人はしっかり仕事をこなしている。迷惑をかけられたことはないな」

俺の言葉を聞いたメイド長はほっとした様子で

「ならば良かったです。娘が主人に迷惑をけているなんてメイド長としての面子がないですからね」

そう言って俺から離れ、メイド達の元へ向かい指示をし始めた。

その様子を見て俺は食堂から出て自室へと向かった。


自室に戻った俺は学園の準備をしていた。正直学校はだるい。朝早くから自分にとって必要のない話を数時間聞くこととなる。父上の跡を継ぐのであれば経済学などの現代社会学や哲学や心理学と言った人間の思考を学ぶためや人望を得たり、人間性や能力を見極められるようにするためだけに行っているようなものだ。何故古典や歴史などの必要のないものまで覚えなければならないのか理解に苦しむ。

「忘れ物はないな」

そう独り言を呟き鞄の中を確認する。もし何か忘れたとしても使用人たちに連絡すれば学校まで持ってきてくれるが、そこまで皆に迷惑をかけるわけにもいかない。

「よし、大丈夫そうだな」

忘れ物がなさそうなことを確認すると、突如自室のドアが叩かれた。

「図玲様、用意は出来ましたか?そろそろ向かう時間です」

ドアの向こうからは珠莉の声が聞こえてきた。迎えに来てくれたのか。

「あぁ、問題ない。今行く」

そう返して鞄を持ち自室のドアを開ける。そこには見慣れた制服に身を包んだ珠莉がいた。

「待たせたな。六紗はどうした?」

姿が見えないもう一人のメイドについて聞いてみると

「六紗は既に車で待っております」

その言葉を聞いた俺は、多分俺を呼びに行こうと珠莉が提案したが面倒で来なかった感じだと予想した。

「なら、すぐに行かなくてはな。時間はまだあるが早く行動することに越したことはない」

「そうですね。早く向かわないと六紗が文句を言い始めるかもしれませんし」

確かにあいつなら文句を言いかねない。

そうして後ろから珠莉がついてくる形で玄関まで俺らは歩き出した。


『図玲様、行ってらっしゃいませ』

玄関まで向かうとメイド達が並んで見送ってくれる。前々から手間だろうからそこまでしなくてもよいと言っているのだが…これも仕事なのでと一喝されてしまう。

「行ってくるよ」

皆にそう言ってドアを開ける。そこにはいつも学校へ向かうときに使う車が停まっており、その扉の前には少し不機嫌そうな制服姿の六紗が立っていた。

「遅いぞ、図玲様。遅刻したらどうするんだ?」

「待たせたのは悪いと思うが、遅刻するほど遅くはなっていないぞ」

「なんだとぉ?もっと早く行動した方が良いと思うんだけど」

「まぁまぁ、六紗が異常に早いだけで図玲様が遅いわけではありません」

俺と六紗が言い合っていると、ジュリが仲介に入った。ジュリは俺の味方のようだ。

「なんだよ珠莉、図玲様の味方をするの?」

「私にとって六紗は大事な人だけど、図玲様は私のご主人様なので」

「もーなんだよー」

きっぱりと言い切った珠莉に対して不貞腐れた様子で車の中に六紗が乗り込んだ。

その様子を見て俺は

「あいつ、本当に俺が主人であると思っているのか?」

そう疑問をこぼした。そんな俺に珠莉は

「正直、私にも当てはまることですが、六紗は図玲様とともに育ってきましたし、図玲様のご意向で友人と同じように接してきてもらっているので、あの子も友人や幼馴染のような感覚なのでしょう。そんな態度に対して機嫌を損ねましたなら直させますが…」

そう言ってきた。まぁ俺も生まれた時から一緒にいるせいで主従関係といった感覚はあまりない。第一、堅苦しい雰囲気自体苦手だからこんな接し方をしていた俺が原因でもあるのか。

「別に直さんでもいいさ。昔からこんな感じだからむしろ直された方が違和感がある」

「では何故、疑問を?」

「いや、一応俺もそれなりの立場だからさ。公の場でも六紗があんな状態だと多少不都合があるだろうからさ」

「なるほど、大丈夫だと思いますよ。流石にあの子もそれくらいは弁えていますので。それも出来なかったらメイドとして図玲様に仕えていませんよ」

俺の疑問に答えてくれた。それくらいは出来るなら大丈夫だな。

「ありがとう、ちとそこが不安だったもんでな」

「悩みが解決できたのならばよかったです。では向かいましょうか」

珠莉はそう言って車の扉を開けてくれたので中に入る。暖かい。

「遅かったな二人とも。何を話していたんだ?」

「お前について」

「私について?」

先に中にいた六紗の質問に軽く返す。

「まぁそれは向かいながら説明しますよ」

六紗がそう言うと

「図玲様、向かってもよろしいでしょうか?」

「あぁ、悪い。待たせたな。進んでくれ」

運転手が確認を取ってきたので許可を出して、俺らは学校に向かった。


帝都ていと皇貴堂こうきどう学園

この国における財閥や貴族、大富豪、ましてや王族などが多く通う私立の一貫校。ここに通う貴族などの年齢が近い従者が供に通うこともある。小中高と通い続けることが可能であり、ここをある程度の成績で出れば大半の職業に就くことが可能になると言われる程の難関校でもある。まぁ、ここにいる奴はだいたい親の跡を継ぐことが大半であるため他の職に就くということは少ないが。


「着きましたよ」

「あぁ、ありがとう。帰りもよろしくな」

「承知致しました」

運転手に礼を言って車を降りる。珠莉と六紗が先に降りてそのあとに俺が降りる。

さてと…学園を目に入れると憂鬱ゆううつだ。改めて今日もつまらない授業を受けなけらばならないのかと感じる。

「どうかされましたか?」

軽く萎えていると珠莉が心配して声をかけてきた。こういう時しっかり心配してくれる珠莉は優しいな。それと比べて六紗は…

「朝の図玲様にいちいち心配していたらきりがないぞ」

と、辛辣な言葉が飛んでくる。

「でも…」

「どうせ、授業やら学園が面倒で萎えているだけだから気にしたら負けだよ」

「…よく分かってらっしゃる」

図星だ。何も言い返せん。

「それなら良いんですが…もし本当に体調が優れないのであれば言ってくださいね」

「あぁ、ありがとう」

「珠莉は心配しすぎだよ」

「お前は俺を心配しなさすぎだがな」

「図玲様って体調崩したりしないから心配をすることが基本無いから別にいいだろ?」

「それはメイドとしてどうかと思いますが…」

俺らがそんな会話をしながら教室へ向かっていると

「よう、図玲。毎度美人メイド二人と登校はいいねぇ」

前からそう声をかけられる。その声の主に俺は

「お前は朝から元気だな、結朔けっさく

と返した。


輝朝てるあさ結朔けっさく。この学園ででは珍しい庶民からこの場に来た。基本的に庶民の出は貴族たちにラフに関わってしまうと、ここから追い出されたり、集団からはぶられたりするが、俺は基本身分を気にしないため、結朔などの庶民の出の奴らも気軽に話しかけてくる。個人的には貴族たちは地位を見て関わってくる奴が大半なので、むしろ庶民の方が関わってて有意義だ。


「おはようございます、結朔さん」「おはよう、結朔」

「おはよう、珠莉さん。六紗さん。毎度思うが図玲といて良いと思えるのは二人の美人メイドと話せることだよな」

「おい待てどういうことだ」

二人の挨拶に結朔は返すがその後の言葉に待ったをかける。

「冗談だよ、冗談。…半分な」

「半分は本当ってことじゃん!俺お前と関わるのやめようかな…」

「待ってくれ、それは困る!すまんかったから!」

そう言い結朔は手をあわせ謝ってくる。それを見てなお悩む俺に再度謝る結朔。

俺と結朔のやり取りを見た二人のメイドは苦笑いをしていた。この時二人は『毎度仲良いな、この二人』と思っていた。


「あー疲れた。なんで朝からこんな声を出さなきゃならんのだ」

「よくお前も俺みたいな庶民に全力で張り合うな」

お互い少し息を切らせながらも教室に着いた。こいつといると時間が経つのが早く感じる。

しかし俺の言葉に返した結朔の発言に引っ掛かりを覚えた俺は

「俺みたいな庶民になんて言うな。俺からすれば貴族も庶民も変わらず、この学園の同級生であることに違いはない。そんなことを気にするのは俺が信頼するに値すると認めた人間じゃないぞ」

俺は教室の扉を開けながら後ろにいる結朔に言葉をかけながら中に入る。

これが俺の思考・理念だ。たとえどれだけ貴族達に庶民が見下されようとも俺は対等の立場を忘れない。生まれた環境が異なるだけで同じ人間だからだ。


「あいかわらず変わったやつだよな、図玲様って」

「ですね。あの思考は他の貴族には類を見ないものです」

私は教室にて、本日の講義の準備をしていると隣の席の六紗の呟きに同意する。

一般的に貴族というのは庶民を下に見る傾向があります。王族はそうでもないようですが。図玲様は貴族でありながら庶民と同じ目線に立つ事が出来る変わった方です。

「さっき結朔に言った事は図玲様の本心だろうし、あの言葉を聞いた他の貴族たちは異質なものを見るような目を向けていたからな」

先程図玲様は教室の扉を開けた際にあの事を仰っていたので中にいた貴族は皆奇異の目で私たちの方を見ていました。

図玲様に仕えて以来、最初のうちは図玲様と共にいて周りの目にたじろぐ事がありましたが、ずっと仕えていると日常になり慣れました。

その図玲様は

「あーそうだなーそれなー」

教室の貴族に囲まれ適当な返事をしている。皆図玲様に取り入ろうとしています。図玲様の家系は代々国の重要な役割に位置付けられます。なので皆図玲様と近しい関係になることを日々狙っておられます。それを図玲様も理解しており面倒なので何も考えず適当に流しておられます。

「助けに行った方がよろしいでしょうか…」

「別にいいでしょ。図玲様も受け流し方は心得ているし、もうちょっとすれば講義も始まるからさ」

私が心配して図玲様を見ていると六紗にそう言われたので助けに行くのを思いとどめる。

確かにもうすぐで講義が始まる。いくら貴族の子とはいえ流石に時間は守る人がほとんどです。

この学園の教師や博士は国に認められる非常に優秀な人たちが多く、その分力を持っておられるので生徒が横柄おうへいな態度を取りすぎると追い出されたり、成績を大幅に下げられることもあるので皆真面目に講義を受けることが大半です。

「皆席に着け。講義を始めるぞ」

教室に教師が入ってきました。今日の最初の講義は経済でございます。

「珠莉ー多分私途中で分かんなくなるから困ったら聞くけど良い?」

「いいですよ。まぁ私もそこまで経済は得意ではありませんよ」

隣から六紗が小さな声で聞いてくる。彼女は経済が苦手です。というか全体的に勉学が苦手です。ですが運動能力に関しては同年代の中でも非常に秀でています。

貴族のメイド、特に図玲様のメイドであるのでそれだけ様々な能力を有していないと図玲様の顔に泥を塗ってしまいます。

あの方はそんなこと気にしなくて良いと仰いますが…。


「では、講義を終了する。皆次の講義の準備をし休め」

講義の時間が終わり教師の言葉で各々の行動を始める。

「すみません。図玲様。次のパーティーにこそ来ても…」

「あー悪い、ちょっと忙しい。また後にしてくれ」

「あ、ちょっと…」

教室の貴族が話しかけてきたがそれを振り切り廊下の方へ向かう。どうせいつものパーティーとかの誘いだ。ああいうので俺の機嫌を取ろうとしているのが見え見えだ。

「珠莉、六紗。行くぞ」

「分かりました」「あいよー」

教室から出るときに離れたところにいる二人に声をかける。一人で出てもいいが変な勧誘やら誘いがあるからな。ある程度対処は出来るが一人で捌ききるのには限度がある。

「来たな。適当にぶらつくがいいか?」

「いいですけど…15分もすればまた講義ですよ?」

「次は考古学だ。俺が生きるのに必要ではない。だから受講する必要はない」

「変にサボると成績下がるぞ」

「俺は構わん。テストで点だけ取っとけば問題ないからな」

何故自分が生きるのに必要ではないものを受けなければならんのだ。それに…

「そういえば、考古学の教師は図玲様の従兄弟でしたね」

「あぁ。あいつなら俺がサボっても許してくれる」

「図玲様は大丈夫かもしれんが、私たちは大丈夫じゃないぞ」

「いや、お前らも大丈夫だ。俺から話はつけておく」

「分かりました。でしたら図玲様の望むところへ」

「おいおい、本当に大丈夫かよ」

「任せろって。俺を信じろ」

すぐに信じる珠莉とすぐには信じない六紗だ。

「じゃあ行くぞ」

「はい」「あいよ」

そこから俺らは足を動かし始め、その後ろから二人もついてきた。


「で、なんで私たちは生徒会室にいるんだ?」

俺が向かった場所は生徒会室。この学校の実質的な権力を持っている生徒会が活動する場だ。

「遊びに来た」

「そうだろうけどさ…」

どこか納得いっていない六紗を尻目に生徒会室の扉に手をかける。他の教室とは異なる重みがある扉だ。

「いるか?」

「あぁいるよ。図玲君だろ?」

扉を開け椅子に座っている人物に声をかける。その人物は大きな窓から外を眺めていた。

「何故ここにいるんだい?もうすぐ講義が始めるよ?」

「次の時間は考古学だ。俺には必要ない」

俺が質問に答えていると

「図玲様、話している御方はどなたですか?」

後ろから珠莉が質問してきた。そう言えば珠莉はあいつと直接的な関りは少ないな。「あれっ?珠莉知らないの?」という六紗の驚きの声が聞こえた。

「挨拶がまだだったね。私はこの学園の生徒会長、黒野羽夏くろのうなつだ。ようこそ、私の生徒会へ。図玲君とその従者二人」

長い自己紹介を終え、椅子を回転させ俺らの方へ向いたその人物はこの学園の生徒会長、黒野羽夏であった。

「生徒会長、黒野羽夏様でしたか。気付く事の出来なかったご無礼をお許しください」

「いやいや、構わないよ」

珠莉は羽夏に頭を下げ謝罪した。流石にこの学園の生徒会長ともなればこいつはただ者ではない。


黒野羽夏くろのうなつ

この皇貴堂学園の生徒会長であり、この国の帝位継承権第二位の王女でもある。王女という立場で生徒会長になったわけではなく本人の実力でなった、普通に優秀で人望がある人間である。俺の一族は王族とも関係が深いので羽夏とも幼い頃からお互いの事を知っているので友達のように関わっている。


「図玲君はこの生徒会室でサボるんだね?」

「あぁ。いいだろ?」

「構わないさ。君の成績が下がる事は私に関係はないからね」

生徒会長が講義をサボることを許容するのはどうかと思うがここら辺は関りがあるが故出来るものだ。

「助かる」

「私も君と同じ考えだからね。必要でない知識を得る事は無用だと思っているからね」

「そうであろう。お前も一緒にサボらんか?」

「そうしたい気持ちはあるのだけどね。私は王族というのもあるし兄様を支えなければならないのでね。ほとんどが必要な内容なのが面倒なところだね」

「面倒だな、王族っていうのも」

王族と貴族。本来は俺側はラフに関わればいろいろ問題だが、関りが深いおかげでこういう時融通が利いて助かる。

「まぁここでサボるのはいいけどさ…」

「なんだ?なんか問題あるのか?」

羽夏が少し躊躇いを持ちながら聞いてくる。どうしたんだ?

「君の従者二人は学園でも最上位クラスで美人のようだし、そういった行為の不祥事を君が起こしかねないかなと思ってね」

羽夏が少し顔を赤くしながらそう言ったがいまいち理解が出来なかった。後ろの二人にどういうことか聞こうかと思ったが二人も顔を赤らめていた。まさか俺だけが分からないのか?

「悪い羽夏。間接的な表現ではなく直接的な表現にできるか?」

俺がそう頼むと羽夏はかなり困った様子だった。何かまずい事言ったか?

「…あの図玲様…黒野様が仰りたいのはきっと…」

耳元で小さな声で珠莉が羽夏の言いたいことを伝えてきた。

それを聞いた俺は

「なんだ、何をお前らは恥ずかしがっているんだ?たかだか性行為であろう?」

『…え?』「…なんだと?」

メイド二人と生徒会長から疑問が飛んでくる。おかしなこと言ったか?

「たかだか生物の種の保存だぞ?それは別に変な事ではないだろう?これが変な事であれば生物は繁殖できず絶滅するぞ?」

俺が淡々と述べていくと皆は呆れたような顔をした。何故だ?

「…そういえばそんな奴だったな…図玲様って」

「…そうでしたね…デリカシーという概念の欠片もない御方でしたね」

「…昔よりもより常人からズレた思考を持つようになっていないか?」

「なんだよ、お前ら。別に変な事は言ってないだろ?」

皆が頭を抱えたりため息をついている。それに俺は困惑する。

「まぁいい。君がこんな調子では大丈夫そうだ。私は講義に向かうよ。ゆっくりしていてくれたまえ」

「あぁ、分かった」

俺がそう返し羽夏は生徒会室から出て行った。

「じゃあ言われた通りゆっくりさせてもらうか」

俺は羽夏が座っていた生徒会長の椅子に深々と座る。他の椅子とは異なり非常に柔らかい材質で非常に良い。

「良いんですか?勝手に座っちゃって」

「あぁ問題ない。ちょくちょくここに来た時に羽夏が座ってても押しのけて座ることもあるからな」

「…そ、そうなんですか」

珠莉が苦笑いをする。まぁ生徒会長であり王女に対しここまで図々しくしてお咎め無しなのは本来あり得ないからな。

「俺は少し寝る。お前らも自由にしてていいぞ」

「分かりました」「分かった」

そうして目を閉じ飛んできた睡魔を受け入れ、俺は昼寝を始めた。


「図玲様寝たな」

「早いですね」

図玲様の入眠を六紗が確認してくれました。

「どうしましょうか。自由にしていて良いと言われても…することがありませんね」

「そうだなー」

二人で空いた時間をどうするか悩んでいると

「あ、そうだ」

六紗が何か思いついたようです。

「珠莉って生徒会長のこと知らなかったんだね」

「あーそれはですね」

六紗の質問に

「先程は椅子の背で姿が見えなかったのと黒野様の声を聴いた回数が少なかったので記憶に無かったというのが理由です」

「でも私たちはずっと図玲様といたから小さい頃に王族とのパーティーで何度も会わなかった?」

「そうですけど…最近はご主人様も王族も忙しく会っていなかったので」

「あーそうか。確かに最近プライベートで会うこと少なかったね」

六紗の質問に答えた私は疑問が出てきた。

「そういえば六紗は何故黒野様を覚えていたんですか?」

「それは学園の運動行事の準備や表彰で何度か顔合わせしていたからね」

「そういうことですか」

確かに六紗は運動能力が非常に高いので運動関連では引っ張りだこなので理解できます。

学園の試験での上位5番以内は成績優秀者として表彰されますが、そこに入るほど私は優秀ではないので関わることがなかったのです。ちなみに毎度1番は黒野様、2番は図玲様です。

「まぁ自由にしてって言われたんだ。そこにある紅茶でも入れてのんびりしよ」

「分かりました。私が淹れますね」

「うん。お願い」

そうして私は紅茶を淹れ六紗と雑談して時間を潰しました。


「ふぃ~、つっかれた~」

今日の講義が全て終わり帰る用意をする。

あの後時間が経ち二人に(叩き)起こしてもらい教室に戻り残りの講義を受けた。

「二人とも帰るぞ」

「はい」「そうだな」

荷物をまとめ教室を出る。下手に残っていると周りの面倒な貴族に囲まれるからな。

「おー、図玲。もう帰るのか?」

「お?結朔か?」

廊下に出ると後ろから結朔に声をかけられた。

「お前も早いな。何かあるのか?」

「あぁ、友達の家で遊んでくる」

「そうか」

結朔はこういったところでフットワークが軽いのが良いな。

「今度、お前のところ行って良いか?」

「構わんよ」

「よっしゃー!大貴族の屋敷行ってみたかったんだよな」

「そりゃよかった、光栄に思え」

少しふざけてみた。一般的な貴族が言いそうな事を言ってみる。

「お前そんなの言う奴じゃないだろ」

「あぁ冗談だ」

「まぁ良いか。じゃあまたなー」

「あいよー」

俺は手を振り走っていく結朔の背を見ながら別れを告げた。


「明日の講義は何があった?」

結朔と別れた後、迎えの車が来ているので外に向かっている最中に明日の講義に何があるかを聞いてみた。毎週講義の内容が異なるので最後に教師が次の日の講義を伝えてくれるが俺は話を聞いていなかったので分からないのだ。

「明日ですか?明日はこちらになります」

珠莉が明日の内容をメモした紙を見せてくれた。

「なるほど。明日のやつは全て俺の人生に必要ではないな」

「そのようですね」

「よし、休もう」

俺が堂々とサボる意を伝えると

「マジかよ」

「マジだ」

六紗が驚いた。

「まぁそう言うと思いましたよ。私達は普通に学園に行くので、昼の間私たちはいませんよ」

「構わん。俺は家でゴロゴロしとく」

「分かりました」「分かったよ」

「とりあえず帰るか」

「そうですね」「そうだな」

俺らはそのまま外に出て迎えの車で屋敷に帰った。


「ご帰宅だー!」

屋敷に着き扉を開ける。中ではメイド達が並んで出迎えてくれた。

『お帰りなさいませ、図玲様』

「皆、出迎えご苦労。各々の持ち場に戻っていいぞ」

俺の言葉で皆それぞれ動く。相変わらず仕事熱心な事だ。

「じゃあ私たちは自室で着替えてくるので」

「また後でな」

「あぁ分かった」

そうして今日を乗り切った。明日は面倒な学園をサボってゴロゴロするか。

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