第54話
「貴女……」
「それとも…………ベルジェ殿下には、私の方から伝えておきましょうか?」
「…………!!」
アイカの口から歯が擦れるようなギリギリとした音が漏れた。
二人共、全く視線を逸らす事なく、バチバチと火花を散らしていた。
しかしアイカはフッと息を漏らした後、直ぐにいつもの表情に戻る。
「随分と変わったのね…………ジュリエット」
その言葉に、にっこりと笑う事で返事をした。
それにアイカにはルビーとキャロラインがいないところで言ってやりたい事があった。
「ルビーお姉様やキャロライン王女殿下の事ですが……」
「……!」
「アイカ様の御意見は嬉しいのですが、聞いていると心が痛くなるような言葉もあって…………だから少しだけ、二人が上手くいくように協力して頂きませんか?」
最近、ルビーやキャロラインが落ち込んでいる訳を聞いてみると、大抵アイカが絡んでいた。
『モイセス様は事情があるのだから、貴女が出しゃばるべきじゃないわ』
『迷惑になるだけよ。それに余り周囲の方々にも言わない方がいいんじゃない?』
『わたくしは、ルビーの為に言っているのよ?』
そう言ってルビーをモイセスから引かせようとしていた。
『キャロライン王女殿下は以前の方が輝いてみえました』
『本当にこのままリロイ様に媚びるようなやり方でいいのですか?』
『わたしはキャロライン王女殿下の事が心配なのです』
そう言ってキャロラインを惑わせていた。
まるで二人がいい方向に向かうのを引き留めるような言葉。
二人もアイカを信頼しているからこそ揺らいでしまうのだろう。
『大丈夫』そう、励ましたとしても疑念を膨らませるだけだった。
大きくなっていけば、それを元に戻すことは出来ない。
有り得ない事であっても、一歩進めた筈の恋の勢いを止めてしまう。
そして不安を煽るやり方に怒りが込み上げてくる。
人の幸せを親切を装いながら潰していく。
そんなアイカのやり方が好きではなかった。
「…………随分と、調子に乗っているじゃないの」
「アイカ様こそ、化けの皮が剥がれてますよ」
「……生意気ね。わたくしを敵に回すと後悔するわよ?」
そう言ったアイカは此方をギロリと睨みつけている。
その表情に再びニコリと笑みを返した。
「何の事でしょうか?私、何か失礼な事を言いましたか?」
「フフッ……」
「……」
「…………今日は失礼するわ」
そう言ってアイカは背を向けた。
アイカが去った後、その場で大きく深呼吸した。
しかしその後のアイカの暗躍によってパーティーに波乱が起こるとも知らずに、自らを落ち着かせるようにハーブティーをゴクリと飲み込んだのだった。
ーーーー数日後。
あれからアイカは屋敷を訪れる事もなく、ベルジェ達と顔を合わせる事もなかった。
ただ何かを仕掛けてくるのではと思い、ルビーにアイカとあった出来事を話すと彼女は大きなショックを受けているようだった。
「まさか、アイカ様が……」
そうは言っていたものの、どこか腑に落ちる部分があったのだろう。
「ジュリエット、あのね」
「え……?」
「わたくしね……いいえ、ずっと分かっていたの。本当は……っ!」
「ルビーお姉様」
「アイカ様は……わたくしの事を好いていないって」
そう言ったルビーは震える手を胸元で押さえた。
やはりルビーも何らかの違和感は感じていたようだ。
そんな話をしていると「最近、全然ベルジェが構ってくれない~」と、リロイが不満そうに屋敷を訪ねてきた。
すっかり父や母に取り入ったリロイはカイネラ邸で大歓迎を受けている。
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