第28話
このままだとどうなってしまうのか……安易に想像出来るからこそ焦っていた。
いつまでの言いたい事を伝えられない自分達は全く進展しない。
チャンスは沢山ある筈なのに、それを上手く活かすことが出来ないのだ。
その間にも二人の仲は深まっているし、明らかに良い雰囲気になっているということは分かっている。
分かっているけれど、どうすればいいかは分からないのだ。
小さくなっていくモイセスとジュリエットの背を、いつまでもいつまでも見つめていた。
「…………」
「…………」
ベルジェとルビーは視線を合わせてから頷いた。
互いに泣きそうになりながらも侍女の前という事もあり、張り付けたような笑みを浮かべながら席に着く。
侍女が紅茶を淹れて去って行った瞬間……二人で一気に項垂れた。
「何で上手くいきませんの……ッ!?」
「何故俺は上手く喋れない……ッ!?」
「……」
「……」
「「はぁ……」」
重たい溜息が重なった。
こうして毎回毎回、失敗してばかりいる二人は、会う度に反省会をして次はどうすればいいか相談し合っていた。
好意を寄せている人にどうアピールすればいいか、今まで考えた事もなかった。
そうでなくとも異性が山のように押し寄せてくる。
それに今まで迫られ続けたせいか、普段自分達がされているようなアピールのやり方は嫌だった。
散々、苦労をしているからだ。
しかしジュリエットとモイセスに関しては遠回しな愛情表現よりも、ハッキリと言葉にして伝えた方がいい事に全く気付かない事によってどんどんと関係性が拗れていくとは夢にも思っていない二人は、今日もあまり意味のない作戦会議を重ねていた。
「はぁ……令嬢達の会話をこっそりと聞いて、お洒落をすると殿方の目を惹けると思ったのですが失敗してしまいましたわ」
「そういえば、モイセスはお洒落に疎いような気がするな」
「なるほど……人によるのですね。本当はもっとご意見をお伺いしたかったけど、わたくしが近付くと迷惑を掛けてしまうし……」
「やはりこういう話を令嬢同士では、よくしているのか……?」
「分かりません。わたくしに仲のいい御令嬢はアイカ様以外おりませんから……」
「アイカ……?」
「ドノレス侯爵家の三女で、アドバイスをくれたり、ずっとわたくしに良くして下さっています。色々注意を受けるのですが、なかなか上手くいかなくて。そのせいで他の令嬢達にも嫌われているのかもしれません」
「そうか…………なんか、すまない」
「いえ、嫌われるのには慣れています……!今度アイカ様が是非、ベルジェ殿下ともお話ししたいと言っておりました」
「ルビー嬢の友人ならば別に構わないよ」
「ありがとうございます。そういう殿下こそ、婚約者がいる方に相談してみたのですか?その前に殿下は心を許せる御友人はいらっしゃるのですか……?」
「なっ……!俺の友達はっ」
「友達は……?」
「…………リロイくらいしか思い付かないが、アイツは論外だ」
「確か……リロイ様はモイセス様の弟で、殿下とわたくしと同い年でしたわよね?」
「あぁ……」
ダークブラウンの癖っ毛と濃いエメラルドグリーンの瞳。
昔から悪戯好きで活発で、読めない行動を取っては此方を驚かせて笑っている。
兄であるモイセスとは真逆で騒がしくて食えない男である。
迷惑を掛けられても何故か憎めない。
令嬢達からも大人気で「小悪魔」と言われる程に中性的で可愛らしい容姿をしているが、中身は腹黒くて悪魔どころか魔王なのである。
幼い頃から一緒に居るリロイに振り回されるだけ振り回されたせいか、妙なスキルが身についていた。
瞬時にトラブルに対応する事に慣れてしまったのも、自分が『完璧王子』と言われるようになったのも、半分以上はリロイによって鍛えられたせいだろう。
もう十年以上の付き合いになるが、何故リロイが友人なのか自分でも全く分からない。
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