第25話

ここまで完璧だと、どこかに致命的な弱点があるのではと思ってしまう。


(何かが極端に苦手とか出来なかったりして……!ふふっ)


そんな風に考えていると前から本物のベルジェが歩いてくる。

軽装にも関わらずキラキラと眩しい容姿はなかなかに主張が激しい。


(ルビーお姉様と並ぶと圧巻だわ……!)


手にはいつものように何かが入っていそうな箱。

今日はどんな美味しいお菓子を持って来てくれたのだろうかとワクワクしていた。

以前、ベルジェに「何か好きな食べ物はあるか?」と聞かれて、咄嗟に「甘いもの」と答えてから、美味しいお菓子を持って来てくれるようになったのだ。



「や、やぁ……ジュリエット嬢」


「ベルジェ殿下、ご機嫌よう」


「あぁ……その、」


「…………?」


「えっと……」


「???」


「これは、いつもの……アレだ」


「ありがとうございます!ベルジェ殿下」


「!!!!」


「……?」


「…………っ」


「あの、ベルジェ殿下?」



いつも何かを言いたげに此方にチラチラと視線を送っているのだが、一向に会話が進まない。

間を持たすためににっこりと笑うと、ベルジェは小さくウンウンと頷いてから背を向ける。


(この行動には何の意味が……?誰か教えてくれ)


それに会う度によく分からない質問をしては、ベルジェは喜んだりショックを受けたりと忙しそうである。


この間はーー。



「……ジュリエット嬢は、どんな人が好きだろうか?」


「人……?性格って事でしょうか?」


「あぁ、まぁ……そんなところだ」


「人を平気で利用しない、卑怯な事をしない人が好きですね……!」


「ーーーーッ!!!!」


「あとナルシストは絶対に嫌……ってベルジェ殿下、聞いていますか?」


「………、……っ」


「???」



まるでこの世の終わりかのようにワナワナと肩を震わせるベルジェを見て首を傾げた。

つまりマルクルスのような男じゃなければいいと伝えようとしたのだが、何か刺さる事があったのだろうか。


(王子様だし、モテそうだし、きっと色々と事情があるのね)


そんな風に思いつつも、特に気にする事はなかった。


そして今日はーー。



「ジュリエット嬢は、これからの将来の事を考えていたりするのだろうか?どんな人と……ッ、結婚、したいとか」


「え……?」


「がっ、外見とかでもいいのだが……タイプ、とか」



以前のジュリエットならば間違いなく「わたくしだけを愛してくれる王子様のような人」と答えそうではあるが、前世の記憶を思い出した以上、現実的な答えしか出てこない。


(よし、当たり障りのないタイプを可愛い感じに答えておこう)



「元気で明るくて、色々と一生懸命頑張っている姿を見ると応援したくなりますよね」


「!!?」


「それにやっぱり一緒に居て面白い人とか」


「お……面白い」



いつも落ち着いていて、特に苦労なく何でも出来てしまう自分とタイプが全く違うと認識したベルジェが落ち込んでいる事にも気付かずに話を続けていた。



「それにやっぱり結婚ってなると……」



目の前からゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

ジュリエットはラドゥル伯爵家に嫁ぐ予定だったが、それは白紙となった。

今は婚約者もおらず、嫁ぐ予定もない。

今までジュリエットはこの家から出て嫁ぐ気満々であったが、よくよく考えてみると自分が継いでもいいのではないかと思い始めていた。


恐らくルビーはベルジェと結ばれてハッピーエンドなのでカイネラ子爵を継ぐということはないだろう。


(そうなると、やっぱり結婚相手は次男とかがいいのかしら?前の世界も結婚は大変そうだったけど、貴族もなかなかに大変よね)


今後の未来について考えが纏まったところで口を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る