第9話
「マルクルス様はルビーお姉様を一番に考えてるって言ったでしょう!?そんな相手と婚約関係は続けられないわ!わたくしを利用してお姉様に近づくなんて最低よッ!嘘つき……!裏切り者ッ」
「なっ……!」
そのままマルクルスの仮面を剥がす様に、言われた事を暴露しながら挑発していた。
最初は誤魔化していたマルクルスだったが、ついには耐えきれなくなったのだろう。
怒りで思考が鈍くなったのか、本音がポロポロと漏れ始める。
「……ッ、僕のことが好きだからいいじゃないか!!何度も愛してるって言っていっただろう!?ルビー様を幸せに出来るのは僕しか居ない!これは決定事項なんだッ!」
「!?」
「僕の婚約者になれただけでも有難いと思えよッ!!売れ残りだったくせに」
「…………は?」
マルクルスの発言を聞いて『もう言葉はいらない……』そう悟って、右手を振り上げた時だった。
「ジュリエット嬢……落ち着いて下さい」
そっと後ろから手首を押さえたのはベルジェだった。
爽やかで上品な声に後ろを振り向くと、そこには何故か汗をかいて視線は明後日の方向であるベルジェが居た。
その手はガタガタ震えており、ただならぬベルジェの様子に怒りはすっ飛んでいき、冷静さを取り戻す。
「あの…………ベルジェ、殿下?」
「今の話を聞いて……大体の状況は把握した。あとは私が話をつけよう……」
「へ…………?」
「ジュリエット嬢の悪いようにはならない。安心してくれ」
ルビーに動いてもらおうと思っていたが、まさかのベルジェが庇ってくれた事に驚いていた。
(何故、ベルジェ殿下が……?)
初対面の相手に任せていいのだろうかと迷ったが、拗れる前にベルジェが動いてくれるのなら、これ以上心強い事はないだろう。
「……あの、ありがとうございます」
「あぁ……」
流石にベルジェの存在に気が付いたのか、マルクルスは借りてきた猫のように大人しくなった。
しかしそんなマルクルスに追い討ちを掛ける予想外の出来事が起こる。
そこにはマルクルスをじっと睨みつけているルビーの姿があった。
いつもよりずっと低い声がルビーの唇から漏れた。
「マルクルス様……」
「な、何でしょう……!!ルビー様」
「わたくしの大切な妹を悲しませるなんて……最低ですわ」
「ーーー!!」
「二度とお顔を拝見したくありません」
「ッ……!」
聖母のような笑みを浮かべながら猛毒を吐いたルビーの言葉を聞いたマルクルスは、絶望したのかその場で膝から崩れ落ちた。
ジュリエットがあれだけ言っても反論ばかりしていたのに、ルビーのたった一言でコレである。
(…………コイツ)
確かに、ルビーのチート能力を目の前で発動されてしまえば全ての努力が馬鹿馬鹿しくなってしまう。
マルクルスはベルジェの近衛騎士によって、ずるずると引き摺られながら何処かに連れて行かれてしまった。
「……今日は失礼する」
そう言って華麗に去って行ったベルジェの後ろ姿を目で追っていた。
隣から「御免なさい、ジュリエット……」小さく弱々しい声が聞こえて顔を上げると、そこには初めて見る泣きそうなルビーの姿があった。
思わず「大丈夫」と言って、抱き締めるとルビーの腕の力が強まった。
その後は、これまた信じられないくらいのスピードでマルクルスとの婚約は解消される事となった。
恐らくベルジェの存在が大きかったのとルビーに直接嫌われた為か、ジュリエットの婚約者でいる意味がなくなったのだろう。
そして噂は広がり、社交界にはマルクルスを非難する声が沢山上がった。
令嬢達からは勿論、姑息な手を使いルビーに近づいたこともあり、影から令息達からの攻撃も凄まじいものだったと聞いた。
(フフッ、ざまぁ……)
当然といえば当然だろう。
庭にある斧は、そのまま壁に立て掛けられて静かにしているところを見てホッと息を吐き出した。
明らかに小説の流れになった事に安堵したのだった。
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