第7話



「……もう私は、貴方を愛していないわ!」


「!?」


「それに本当はお姉様が好きなんでしょう!?なのに私と婚約したままでいようなんて有り得ない!」


「ッ、どうしてそんな風に心変わりするんだよ!?」


「だ・か・らッ!!!お姉様に近づく為に私を利用して婚約したとかいうクソみたいな宣言を聞いて、どうしてまだ貴方が好きだと思う訳ッ!?」



大声で叫ぶように言っても婚約者であるマルクルスには届かないのか、納得出来ないようだ。

二人で怒鳴り合っているのだが、「本当は姉を崇拝している。でもお前もまぁまぁ好きだぜ」と言われて、心変わりするなと言う方が無理だ。


(私の感覚がおかしいの!?違うわよね……!?)


マルクルスはさも当然のように言っているが、そんな理由で婚約されたジュリエットの立場からすれば「ふざけんな」である。


嫌悪感に鳥肌が立つ。



「だって……だって、あんなに僕のことを好きだと言っていたじゃないか!!」


「もう嫌だって言っているじゃない!!大っ嫌いッ」


「ーーッ!?」


「顔も見たくない。今すぐ婚約を破棄したい。一緒に居たくない。これでいいかしら?」


「どうして……そんな急にっ!おかしいじゃないか……!」


「はぁ…………馬鹿なの!?もうさっさと婚約を解消しましょう?これ以上、話しても無駄よ」



言い聞かせるように言うとマルクルスは唇を噛みながら瞳に涙を浮かべている。



「くっ……もういい!!こんなに恥知らずな女だったなんて」


「ハァ!?」



怒りが爆発寸前である。



「もう僕の前に二度と顔を見せっ……「お前がなッ!!!!」


「…………!?」



大声で被せるように叫ぶとマルクルスは大きく目を見開いた。

ポカンと口を開いて全く此方の言葉を理解しようとしないマルクルスの顔面をグーパンチで殴りたくなった。

とはいえ相手は伯爵家……下手な対応を取れば、いくら此方が悪くなくても問題になってしまう。


このままでいくと、このナルシスト男が怒り出して騒ぎになりそうだ。

それに思い込みが激しい性格を見るに、簡単には婚約を解消してくれそうにない。


今まではジュリエットがマルクルスにベタ惚れだった……ように見えていた。

今、現状で証拠はマルクルスの証言だけだ。

どうすればスムーズに婚約を解消出来るか考えていた。


(まずは両親に訳を説明して、それからマルクルスに本当はルビーお姉様が目的の婚約したって事を人前で言わせないと……!)


このままマルクルスと二人で居ても話が通じなそうなので誰かを交えて話したほうがいいだろう。



「こんなに馬鹿な女だったなんて思わなかったよ……黙って僕に従っておけば幸せになれたのに」


「ーーー!?」


「まさかこの方法が上手くいかないなんて……何故だ?アイツはこれなら絶対にルビー様を手に入れられると言っていたじゃないか」



ガラリと雰囲気が変わったマルクルスは、どんどんと此方に近付いてくる。


(アイツ……?誰のこと!?)


狭い部屋の中で無言の攻防戦が続いていたが一瞬の隙をついて、マルクルスの体を押してから扉を開けて逃げ出した。



「ーー待てッ!!」



後から追いかけてくるマルクルスに恐怖を感じていた。


(どうすればいいの!?ずっと追いかけてくるッ!!怖っ)


ふと、先程窓から見えたルビーとベルジェの姿を思い出す。

マルクルスの憧れであるヒロインのルビーならば、この状況をどうにかしてくれるのではないだろうかと考えた。

しかしジュリエットが助けを求めて、どんな反応をするのか予測不可能であるが今はそんな事を言っている場合ではない。



「っ!待て……!ジュリエット」


「はっ、は…………誰かッ!!」


「この僕が、止まれと言っているだろう!?」


「誰か、助けて……っ!!」


「なっ!?ふざけるなよッ」

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