第6話


先程の会話からも分かる通り、明らかにヤバい匂いがプンプンする。

そういう人とはさっさと距離を置かなければと気分を切り替える。


(邪魔者は……自分で消すしかない。そういう事なのね)


侍女達について行くとジュリエットを待っているマルクルスは、鏡で角度を変えながら何度も何度も自分の顔を確認している。

それを見て確信した。


(コイツ……超ナルシストだな)


反省した様子もなく、自信満々な姿を見ていると次第に苛々してくる。


(こんな婚約は今直ぐに破棄しないと……!私の安寧の為にも)


もしルビーを襲わずともマルクルスと婚約したままだなんて普通に地獄だろう。

此方に気付いたマルクルスは平然と話しかけて来る。

無意識に苦い表情になってしまうのは仕方がない事だろう。



「ジュリエット!先程は驚かせてすまなかった」


「…………」


「余りにも僕の事を好き過ぎて、耐えられなかったのだろう?だが僕がルビー様の事を考えてしまうのは仕方ない事なんだ。それに改めて考えたのだがルビー様を幸せに出来るのはやはり僕しか居ないのでは……」


「マルクルス様の気持ちは分かりました」


「さすがジュリエット……!君なら……っ」


「直ぐに婚約を解消しましょう」


「はっ!?え……!?」



聞くに耐えない言葉を遮って、自分の意志を伝える。

それにわざわざこの男の話を最後まで聞く必要はない……そう思った。



「私とお別れする為に、待っていて下さったのでしょう?ありがとうございました」


「……なっ、何を言ってるんだ?」


「勿論、大丈夫です。婚約を解消する事に異論はありません。このまま手続きを進めていきましょう」


「え……」


「さようなら、お元気で」



何故か「え?」と驚いてばかりいるマルクルスを無視して一方的に話を進めていく。


つまりマルクルスの要望を要約するとこうだ。

ルビーが憧れで、自分こそ美しいルビーを幸せに出来ると思っていたマルクルスは、ジュリエットの婚約者になることでルビーに近付く事に成功した。

けれどジュリエットの一途で健気に尽くす姿に少しずつ惹かれていくのと同時に、利用してポイ捨てする事は惜しいと思い始めた。


そして何故かは分からないがジュリエットに本当の気持ちを話した。

ジュリエットに受けいられる前に、彼女がショックで倒れてしまったので、再び承諾をもらう為に現れた。


堂々と二人欲しいと言うマルクルスの主張は傲慢の極みである。


それで「はい、分かりました」という女性がいる訳がないのに、マルクルスは自信満々にジュリエットは自分を愛していると信じて疑っていないのだろう。


(あり得ない……!)


それにマルクルスは『本当は…………僕はッ、女神であるルビー様に近づきたかっただけなんだ!!!』と何の悪びれもなく言っていたではないか。

ルビーの相手は自分しか居ないという妄言を吐いているこの男に言いたい事は一つだけであった。


(……ふざけんじゃねぇ!!!!)


自信過剰且つ、強欲過ぎる考え方に募る苛立ち。 

ジュリエットの気持ちは一切無視で、自分のことしか考えていないマルクルスとは、別れるという選択肢しか存在しない。



「では詳細はお父様に……」


「君は……君は僕のことが好きじゃないのか?何で急にそんな事を言うんだ!!」


「はい……?」


「だからルビー様を幸せに出来るのは僕しか居ないんだよ?これは仕方のない事なんだ!理解してくれ」


「全く理解できません。今日限りでマルクルス様との関係は、お終いです」


「何でなんだ!!あんなに僕のことを愛していると言っていたじゃないか……!?」



だからそれを君が打ち壊したんじゃないか……という言葉を仕方なく飲み込んで、納得する様子のないマルクルスを睨みつけた。

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