罠。後に絶望を3
魔法の映像で魔力を奪われている男はどう見てもアメティスタ家の跡取り。彼女達が彼をリゼルと信じ込むのは、恐らくリゼルの仕業。真実を知ったら絶望をするのは誰か。
反応の仕様が掴めない。岩の中に閉じ込められているネロが心配だが、徐々に近付いて来る男達から逃げるのも必死。
嘲笑うビアンカは余裕の態度で見つめるだけ。ネロの救出と脱出。両方を選択したくても、圧倒的経験不足からリシェルは恐怖で足が竦んでいた。
「もう飽きてきた」
「!!」
発光し続ける岩の中から平然としたネロの声が。皆の視線が一斉に岩に向く。一際強い光が出されると岩は破壊され、中から無傷の男が複数の触手を握って立っていた。
「な、何故……きゃあ!?」
ネロの許へ駆け出そうとしたリシェルが聞いたのはビアンカの悲鳴。砕けた岩の欠片がビアンカや男達に襲い掛かっていた。無数の小石に成す術もなく全身から流血していくビアンカ達。「リシェル嬢」ネロが後ろにまで来ていた。
「心配を掛けたね」
「どこも怪我はしてない!?」
「私、これでも強いから平気さ。しかし……あの花が魔族の擬態だったとは」
岩の中に閉じ込められると花に擬態していた複数のアメティスタ家の者はネロに触手を巻き付け、魔力吸収を開始した。
彼等にとっての誤算はネロが天使ということ。天使の力は悪魔にとって猛毒に等しい。始まってすぐに腐っていったと。
中から出されていた光はビアンカ達を騙すネロのカモフラージュ。握っている触手の先は腐り溶けていた。
無傷なネロの姿に安心してしまい、足から力が抜けてしまった。座り込む寸前だったのをネロに支えられた。
「ねえ!! 止めて、止めなさいよ!!」
「助け――ぎゃあああああ!!」
全身が真っ赤に染まり、魅惑的なドレスは破れ服の体を成していないビアンカは泣きながらリシェルやネロに懇願する。男達の方はビアンカよりも悲惨で、体のあちこちに小穴を開けられ血の噴水が出来上がっている。一人の男の目が潰された。激痛で悶絶しても小石の勢いは止まらない。
初めて見る凄惨な光景。大嫌いな相手でも死んでしまえとまでは思わない。何よりビアンカはノアールの愛する人。
ビアンカが死ぬとノアールは悲しむ。
恋敵を助けるのはとても嫌だ。ビアンカが死ねば、空いた心の隙間に入ってノアールにもう一度気持ちを向けてもらえるかもしれない。残酷な真似をリシェルは選べない。
「ネロさんっ、もう止めて! 十分だから、このままだと死んじゃうっ」
「? 君は勘違いをしてないかい」
「え……」
苦笑した面は場違いな美しさと慈愛に溢れ、固まるリシェルの頬に唇が触れた。顔を近付けたまま囁かれる。
「何故、天使が悪魔を助けないとならない?」
「……」
リシェルは大きな勘違いを起こしていた。
ネロは天使。父リゼルの友人だから、リシェルには親切にしてくれているだけの。
本来なら敵同士であるのに。
俯き、何も言えないリシェルの頭にもキスが落とされた。
「聞かせて。リゼ君を罠に嵌めようとし、君を売り飛ばすなんて非道な行いを企む彼女達を私が助ける理由はなに?」
「……」
「ないでしょう?」
小さく、頷く。
「仮に私が悪魔だったとしても、助ける気は起きないよ。私はリシェル嬢が気に入ったんだ。君に害にしかならない者を生かしておく理由はない」
「でも……殿下が……」
「王子様がどうしたの。ひょっとして、あの女の子は王子様の浮気相手? それこそ生かす理由はない」
天使だから、ノアールの恋人だから、リシェルに危害を加えようとしたから。
ネロの中でビアンカを助ける道理は何もない。
「怖いなら見なくていい、聞こえなくていい」
抱き締められ耳を塞がれる。
ビアンカ達の悲鳴は聞こえない。
姿は見えない。
このまま時間が過ぎていけば終わる。
「――ビアンカ!!」
遠くからノアールの声がした。彼が呼ぶ声にリシェルの名前はなかった。
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