『ゆうれいタクシー』

やましん(テンパー)

『ゆうれいタクシー』


 これは、フィクションであり、ジョークです。




        🚕💨💨




 やれやれ、宴会なんて、疲れるだけだ。


 7時から始まって、3時間。


 ひたすら、ぼ〰️〰️〰️〰️っとしているだけだ。


 たまに、優しい後輩が回ってくるが、ぼくはお酒飲んだらダメなので、また、甘いジュースはさらに良くないので、ひたすら、ウーロン茶ばかり。


 クラシック音楽以外には興味ないし、宴会で仕事の話は、絶対いやだ。


 上司といっても、小さな支店だから、ふたりしかいないし、ひとりは、尊敬していたが、もうひとりは、後輩になる。まあ、あまり、ご機嫌とる気もない。


 てなわけで、ひたすら、耐えて、ご帰還である。


 お酒飲んでるわけでもないから、ごく普通で、多少毒気に当たってるくらいだ。


 まあ、しかし、タクシーで街のホテルに戻るしかない。


 自宅は遠すぎて、いまさら、帰る便などない。


 わざわざ、山の中の温泉まで、宴会に来るかいな。


 他の人は、割合、温泉の近所の人ばかりだし、所長さんあたりは、まだ、飲みに行くのだろう。


 ぐちってみても、せんないことだ。


 ぼくは、街中のホテルに車を置いてきた。


 タクシーで、20分くらいであるから、たいした距離ではない。


 フロントで、呼んでもらわないと、いないだろ、と思ったら、なんと、1台いるではないか。


 個人タクシーさまみたいだ。


 ハイブリッドの良い車である。


 『中央ホテルに。お願いいたします。』


 『あい。』


 ぼくは、よくしゃべる運転手さまは、苦手だ。


 野球の話や、サッカーの話は、そもそも分からない。


 でも、幸い、静かで、上品な方だ。


 ぼくにとって、上品であることは、極めてたいせつであるからだ。


 タクシーは、温泉から続く川の横を走る。


 割合に大きく、荒々しい川である。


 大雨になると、洪水を起こすことがある。


 『お客様、酔っていらっしゃらないですね。』


 『ああ、のんでおりません。ドターストップですから。はは。』


 『そりゃ、お気の毒ですな。お付き合いですか。』


 『まあ、そうです。』


 話しは、それで途切れた。


 この先は、ちょっと前に、大きな事故があった場所だ。


 原因は、いまだに、わならないらしい。


 『お客様、この先で事故があったのは、ご存じで?』


 『話しは聴きました。タクシーさんが、川に突っ込んだとか。』


 『そう。そうなんですがね。ここでは、五年まえにも同じように事故があったのです。』


 『ほう。』


 『そのときは、お客様が、突然暴れだして、川に突っ込んだ。運転手は、即死でして。なに、お客様は、生き残ったが、いまだに、病院で毎晩なにかに襲われるといって、暴れるんで、拘束されるとか。』


 『お気の毒に。このあたりですか。ちょっと止めて。お祈りして行きましょう。』


 『わかりました。』


 タクシーのライトと、街灯の明かりで、少し川原までおりて、丁寧にお祈りした。


 さて、と、とタクシーに帰ったが、なぜか、運転手さんが見当たらない。


 『あらまあ。お手洗いかい。』


 しかし、10分、20分、30分、


 経っても、姿がない。


 仕方がないから、タクシー会社に連絡した。


 まあ、現代は便利だ。


 山のなかでも、携帯がつうじるんだから。


 『はい、え。どちらにいますか。はあ。その車の車番は? え? え。あちゃー。あなた、生きてますよね。わかりました。そこから、動かないでください。車には。乗らないで。迎えをやりますから。』 

  

 なんとも、おかしなはなしである。


 かばんにいれていた、小型オーディオで、フォレ先生のレクイエムを思いっきり、鳴らしていた。


 すると、だれものっていないタクシーが、勝手に、川のなかに入り込んで行く。


 『あ、あ、あ、あ。』


 どんどん、中央部の流れの激しいところにつっこんで、ぶづふづと、沈んでいった。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

 もはや、あまり、説明の余地もなかろう。


 車を止めて、お祈りしたのが、認められて、命を取られなかったのだそうである。


 

 ぼくは、すぐに、都市部に転勤になったが、どうも、調子が悪く、結局は、うつ症状と、なぜか、左腎臓が9割以上停止し、休職をはさんで、辞職した。


 それは、呪いとかではない。


 はっきりした理由があるからね。



 ある晩、あの運転手さんが、夢に出てきて言った。


 『お客様、フォレの、レクイエム、よかったです。あれは、ジャン・フルネさまの古い方ですな。お好きですな。良いことです。最高の慰めになりました。ありがとう。では。』


 

 それからは、おかしな事故は無くなったようで、結構なことである。


 しかし、ぼくとの因縁は、まだ、しっかりと、途切れたわけではなかったのである。


        

          🤲

         



            了

 


 


  


 


 


 


 


 


 

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『ゆうれいタクシー』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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