第二話 強襲


― 同 真珠湾上空 ―


『…トツレ・トツレ(突撃準備体形トレ)』


その信号音とともに改めて悟る。

ついに……始まる

信号弾は……一発、いや、二発強襲か。

流石にばれずに近づくには無理があったか。

強襲ということは敵に僕らの存在がばれているということ迎撃機が来るはずだ。警戒しなければ。




……見えた!オワフ島、真珠湾だ!

結局迎撃機が上がってくることはなかったが、まあ、損害がないことに越したことはない。


『ト・ト・ト・ト・ト・ト………………(全軍突撃せよ)』


来た!ト連送だ。

奇襲成功のため無線封鎖をしていたが、これで解除となる。


『トラ・トラ・トラ(我奇襲に成功セリ)』


味方が真珠湾の様子から奇襲の成功を確信し打電する。これで、本国にも奇襲成功が伝わった。


『どうやら奇襲が成功したようで、敵は上がっていません。今がチャンスです。対地襲撃!小隊、突撃!』


『『「了解!」』』


事前の予定通り、近くの飛行場に機銃掃射を加えに行くことになる。


「行くぞ!鈴木一飛。」

『おう!』


鮫島中尉、南雲一飛曹のペアの後に続いて突入する。




―アメリカ軍指令室―



これは夢、なのだろう。そう、きっとそうである。そうでないと困る。

太平洋艦隊司令官のキンメルは困惑していた。


まあ、無理もないだろう。朝から、司令部に出頭し最近起こった事故の報告を終わらせ、さあ、友人とゴルフにでも行こうと思ったときに電話で「日本機、パールハーバーを攻撃中」と報告があったのだ。


最初は悪戯か冗談かと思った。なのに、私の目の前には黒い煙を吹くわが艦隊と次々と入ってくる最悪の知らせ。


「ウェストバージニア大破炎上中!」

「アリゾナ轟沈!」

「カルフォルニア大破!」

「メリーランド、テネシー行動不能!その他被害拡大中」


「迎撃機はどうした!」

「攻撃が始まった際に真っ先に攻撃され大半は駐機中に撃破され、離陸できた数機も袋叩きにされた模様!」

「クソ!なんて日だ。迎撃、損害把握急げ……」


ああ、

壊れていく、

消えていく、

あれだけ育てた艦隊が

可愛がってきた兵たちが

本来、最も安全である場所で

大半はろくな抵抗もできることなく、

ある船は燃え、

ある船は半ばから折れ、

沈む。


兵達も、

ある者は生きながら炭となり

ある者は愛するものの名を叫びながら息絶える。

またあるものはわずかな希望にすがり海に飛び込むも

流れ弾や、外れた爆弾、魚雷によって吹き飛ばされる。

また、あるものは言葉を発する間もなく肉塊へと姿を変える。

海は赤く染まり

空は黒く染まる

血と硝煙の臭いが鼻をつんざき

煙は懸命に叫び、仲間を助けようとする者たちの灰を焼く

まさに地獄絵図だ。人は一瞬で過去の産物へとなり果てる。


嗚呼、神よ。私は何か罪を犯しただろうか、そうであれば償おう。だから、だから、この悪い夢から覚めてくれ……

その時だった。一発の流れ弾がキンメルの体に直撃した。

彼の体に衝撃が走る。しかし……


「大丈夫ですか!司令!」

「ああ、なんともない。服が焦げただけだ。そう、服が焦げただけ……。ああ、外では兵たちが死んでゆくとゆうのに。いっそのこと、私はこの銃弾で殺してほしかった。そして悪い夢から覚めてほしかった……」


その後も被害は拡大し続けアメリカ側は結局

戦艦五、駆逐艦三、標的艦一、支援艦二隻を失い。

戦艦三、軽巡三、支援艦二隻が大小それぞれの損害を受け、

航空機も撃破一八八、損傷一五九

死者二三三四人、負傷者一一四三人という大きな損害を出した。

なお、キンメルは日本に復讐の機会を望むも奇襲とはいえその被害はあまりに大きすぎ、海軍人生に終止符を打つこととなったという。



―真珠湾攻撃後 第一航空戦隊 加賀 飛行隊待機室―



今回の作戦、作戦上は成功だ。いや、大成功と言っていい。一航戦ではいや、今や日本全国がお祭り騒ぎであろう。なんせ、練りに練った大博打が成功したのだから。

 しかし、その戦勝会ではいるはずの人間がいない。

一人二人ではない。何十人もだ。

なぜか?それは彼らが いまだ帰って来ていない。 未帰還・・・ だからだ。未帰還機、戦場で大半のそれが示すことそれは……機体が撃墜されたこと。すなわち

そのパイロットの 死 


損傷して、飛んでいたとしても速度は下がり、航続距離は当然短くなる。しかも現在艦隊はハワイからの反撃を受けないように撤退中。彼らが運よく着水して生き残ったとしても、そこへ我々の艦隊が戻ることはない。

運が良くても悪くても大半は死ぬ。生き残って捕虜になったとしてもろくな扱いを受けないだろう。


無論、戦争なのだ。犠牲と損害は出る。しかし、しかしである。 あれだけの奇襲が成功してなお、目立つ損害が出た。

撃墜された機は加賀だけで一五機人数で言えば三十一人しかも一人一人がこれ以上ない精鋭。

むろん敵の損害はこれだけじゃすまないだろう。だがしかし、何度も言うがこちらは奇襲をした側なのだ。それに機動部隊もおらず艦載機どころかろくに迎撃機が上がっていない状態でろくな空戦もしていなのにだ。

末恐ろしい。長く続かなければ良いけど



青葉の願いは露と消えることになるであろう。

そう、これは前哨戦に過ぎない。

大戦と呼ばれるまで発展したこの戦争のほんの始まりに過ぎない。


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