第2話 ドラゴンスレイヤー
どうやら自分にはスキルがなかったらしい。そのため屋敷から出ていかなければならない。家令の口からそのことを聞いたフィーネはそんなバカなと思ったが、事実なのだろうとすぐに諦めてしまった。スキルのない者は貴族を名乗れないことは承知している。
フィーネは悪夢の中の自分を遠くから眺めているような感覚の中で淡々と荷物を
彼女が屋敷を出て向かったのは駅馬車の駅舎だ。そこから駅馬車に乗り20キロほど離れた隣街にその日のうちに到着し、そこで1泊して、帝都を目指そうと彼女は考えていた。
――そういえば、あさっては私の誕生日。鑑定を受けたあと、15歳の誕生日にスキルが解放されると聞いていたから15歳の誕生日が待ち遠しかったけれど、私には意味がなかったのか。
揺れる駅馬車の中でフィーネはぼんやり考えていたが、不思議なことに父親の顔も母親の顔も思い出せなくなったことに気づいた。両親とはすでに縁も切れているし今さら思い出す必要もないと思い、生まれて15年間のことは両親の顔と同じように忘れることにした。幸い手切れ金としてもらった金はそれなりにあった。それに自分自身もこれまでもらった小遣いをある程度使わずに蓄えていたので当面の生活には困らないだろう。とはいえ、蓄えはいずれ底をつくので、それまでに何か職を見つける必要があることも確かだ。
そういった
隣街で一泊したフィーネは翌日、帝都方向に向かう駅馬車に乗り込んだ。
駅馬車は6人乗りで、その日フィーネと乗り合わせたのは、新婚の夫婦ものに見える男女と壮年の男の3名。フィーネの向かいに座った夫婦もの二人は幸せそうに終始くすくす笑いながら自分たちの世界の中で小声でなにやら話をしていた。
席を一人分空けてフィーネの隣に座った壮年の男は目を瞑りじっとしていた。男の服装は特徴のある黒革の上下で、腰にはゴツいベルトを締めていた。
乗客が馬車に乗り込む前に御者が荷物を馬車の後部や屋根の上に網を使ってしっかり括りつけるのだが、男は革帯に包んだ大剣と思われる巨大な包を御者に渡していた。おそらく男はハンターに違いない。大剣の大きさから考えると、最強のモンスターハンター、ドラゴンスレイヤーの可能性もある。
これまでのフィーネなら、気兼ねなく男に話しかけたのだが、両親に捨てられたことで沈んだ気持ちからとても
その日の駅馬車の最終駅でフィーネは、駅舎に付随した宿で一泊した。
翌日、早めに目覚めたフィーネは朝の支度をし、軽く朝食を済ませて、帝都方面行きの始発の駅馬車に乗り込んだ。
その日乗り合わせた乗客は、昨日のハンターらしき男だけだった。男はフィーネの斜め向かいに座って昨日同様目を瞑って馬車に揺られていた。
フィーネはフィーネで、
――今日はわたしの誕生日だけども、特別変わったことなど何もなく過ぎていくんだわ。これから先死ぬまで何も変わったこと無くね。
などと考えていた。
駅馬車が出発して、1時間ほど過ぎたころ。フィーネは馬車の揺れでうつらうつらしていたが、誰かに話しかけられて目を覚ました。
「……、お嬢さん? お嬢さん?」
話しかけてきたのは、例のハンターの男だった。男はフィーネの向かいにずれて座っていた。
「は、はい。何でしょう?」
「俺はヴェルナー・フォルツという者だ。少しは名の売れたハンターだ。怪しい者じゃない」
「はい。それで、フォルツさんは私に何のご用でしょう?」
「お嬢さんのまわりで魔力が渦を巻いてるんだが、大丈夫か?」
「えっ!」
自分の目に入る範囲で自分を見たところ、確かに、フォルツのいう通り体の周りを何かが渦を巻いている。いままで魔力など見たことがないフィーネなのでこの渦が魔力かどうかは分からない。
「体はなんともありませんし、気分も悪くはありません。
えーと、私の周りで白く光ってぐるぐる回っているのが魔力なんですか?」
「お嬢さん、もしかして、今日が15歳の誕生日じゃないか? それでスキルが目覚めたのかもしれない。
差し支えなければ、お嬢さんのスキルを教えてくれないか? 俺は口が堅いから誰にも言いふらすことはない。ここだけの話だと約束しよう」
「確かに今日は私の15歳の誕生日です。先日帝都に行った際鑑定の間で鑑定したところスキルが無いと言われました。ですので、残念ですがこれはスキルが発現したというわけではないと思います」
「おかしいな。鑑定結果には何と?」
「確か、『鑑定できず』だったと」
「『鑑定できず』は文字通り鑑定できなかったということで、必ずしもスキルがなかったというわけではない。お嬢さんのご両親にはちゃんとスキルが有るのだろ?」
「もちろん、二人ともスキルがあります。
言いにくいことですが、私が母親と平民との不貞の子だった場合はスキルがないこともあるのでは」
「お嬢さんには、複雑な事情もありそうだが、その光が見えているということ自体なにがしかのスキルが有る証拠だし、体の外でそれほど力強く魔力が渦巻いている人物など俺はこれまで見たことはない」
「ほんとうですか?」
「本当だ。おそらく相当すごいスキルをお嬢さんは持っている。
スキルが鑑定できなかったのはそのせいだろう」
「私のスキルがどういったものなのかどうすれば分かるでしょうか?」
「残念だが、帝都の鑑定の間にある水晶玉で分からなかった以上、誰にも、どこに行っても分からないと思う。気の毒だが、自分のスキルが何なのか自分で調べるしか方法はないと思う」
「そうなんですね」
「力になれなくて済まない」
「いえ、自分にスキルがあるということが分かっただけでも十分です。ありがとうございます」
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