言えない想い

ヤン

第1話 同級生

 駅前にあるファミリーレストランのドアを開けると、ウェイトレスが振り向いた。驚いて二度見してしまった。


(え…?)


 見間違いではなかった。やはりその人は、伊藤いとう憲太けんたがよく知る人物だった。


 彼女は気まずそうな表情で俯いたが、自分の役目を思い出したのだろう。すぐに顔を上げて笑顔を作ると、「いらっしゃいませ」と言い、席に案内してくれた。


「お決まりになりましたらお呼びください」


 お冷をテーブルに置いて一礼すると、奥に入って行った。


 彼女は何故ここで働いているのだろう。


 不思議に思ったが、それはとりあえず置いといて、メニューを見た。テーブルのボタンを押すと、伊藤の知人ではない女の子が来た。彼女は伊藤に笑顔を見せると、


「お待たせしました。ご注文お伺い致します」

「クリームソーダをお願いします。それから、三上みかみさんは?」

「三上さんのお知り合いですか。あ、いけない。立ち入ったことを訊こうとして。申し訳ありませんでした」


 彼女は頭を下げると、注文を繰り返して奥へ入って行った。伊藤の知人については何も教えてくれなかったが、仕方ない。思わず息をついた。


 高校を卒業してから、彼女は一駅先の会社に就職したはず。たまに連絡を取り合っているが、最近話した時には何も言っていなかった。


 五分程でクリームソーダが来てストローに口を付けた時、三上みかみ沙羅さらが私服で現れた。


「久し振りだね」


 彼女から声を掛けてきた。伊藤は微笑み、


「そこに座りなよ。仕事終わったんだ? だから注文取りに来てくれなかったのか」

「ちょうど上がる時間だったから」


 俯きながら言う。伊藤はストローをすすると、上にのっているアイスをスプーンですくって一口食べた。


「そうだ。三上さんも何か注文すれば」

「そうだね」

「じゃ、ボタン押すよ」


 彼女の許可なく、いきなり押した。彼女も、「あ」とは言ったものの特に怒りはしなかった。


 すぐにさっきの彼女が来た。伊藤の前に沙羅が座っているのを見て驚いていた。


「やっぱりお知り合い? いけない、いけない。私ったら。えっと、三上さんが注文ですか? 何にしますか?」

「そうだな。チョコレートケーキとアイスティーにしようかな」

「かしこまりました」


 沙羅は、彼女を見送った後視線を伊藤に戻して、ふっと息を吐いた。


「驚いたでしょ。私がここで働いてるの」

「まあ、そうだね」


 肯定はしたが、伊藤はそれ以上は訊かなかった。言いたければ話してくれる。催促することではない、と思ったからだ。


 沙羅は黙って伊藤を見ていた。伊藤は、アイスをメロンジュースに沈めると、笑顔で言った。


「オレは、今日休み。で、そこの本屋さんに行って、いろいろ見てた。それから、ちょっと喉が渇いたから、ここに来た。ほら、買ってきた雑誌。表紙がアスピリンなんだ。今度、CD出るからね」


 アスピリンとは、彼らが好きなロックバンドである。伊藤が袋を開けて雑誌を出して見せると、彼女も少しそれを見ていたが、急に顔を上げて伊藤を見た。思いつめたような表情をした彼女は、決心したのか、口を開いた。

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