第63話 幽霊都市の大掃除
スターゲート本部にやって来てから数日。俺たちは今までの疲れを癒すと共に、つかの間の休みを満喫していた。
皆で料理をしたり、子供たちと遊んだり、あったかい風呂に入ったり。ここには食料も水も電気も、全てが潤っている。おまけに科学力はスターゲートの外と何十年もの差があり、ゾンビから施設を守るだけの兵力も潤沢。まさに人類最後の砦と言っても過言じゃないのではなかろうか。
ふと思い出したかのように「俺たちにも何か出来る事はないか」という思いが頭をよぎる。
思えば、俺は異能力を持っているだけの高校生。ここで無理に出しゃばるのも違うかもしれない。そう思っていたのだが……。
「この作戦、ただの高校生には向いてないな……」
俺たちは再び中央指令室に訪れ、ついに決まったという作戦の詳細を聞いていた。そんな中、俺は思わずそう呟いていた。
「ただの高校生なんて言い方はよしてください。キミたちは十分に戦力足り得ますよ! ここにいる、どの大人たちよりもねー」
と灰仁博士は言うが、今回ばかりはさすがに不安があった。なにせ今回の作戦は、逃げるためにゾンビと戦っていた今までとは違う。
安全を確保するために、本部周辺のゾンビを掃討する。
いわば、攻めるためにゾンビと戦う作戦なのだ。
* * *
グランドクリーン作戦。
今回のゾンビ掃討作戦はそう名付けられたようだ。
「会議の結果、我々スターゲートが目指す先が決まった。もはや人類に残された選択肢は数少なく、我々に選り好みをする余裕など残っていない。これよりスターゲートは、生き残った民間人の救助と避難場所の確保に移る事となった!」
中央指令室にあるひと際大きなモニターの前で熱弁を振るうのは、高級そうなスーツに身を包んだ一人の男性。彼こそが今のスターゲートのトップ『ゲートリーダー』らしい。
「その為にまず、グランドクリーン作戦を決行する。目的はゾンビの掃討および周辺地域の安全確保、そして直線距離で約千メートル付近にある太陽光発電所の復旧だ。これにより後に設立される避難所への安定した電力供給が可能になる」
中央指令室には俺たちの他にも、研究者や機動部隊など、たくさんのスターゲート職員が集まっている。そしてその中に、ひときわ目を引く一群がいた。
恐らく十六から二十歳前後であろう少年少女の集団。その中に、数日前に廊下ですれ違った薄紫の髪をした浮遊少女もいる。もしかしてあの人たち全員が、『
「……お兄ちゃん、ちゃんとあの人の話聞いてる?」
「え、ああ悪い。聞いてる聞いてる」
よそ見をしていたのが
話された作戦概要はこう。
七つに分けたチームをスターゲート本部を中心に円形に配置し、無人探査機であらかじめ見つけているゾンビを倒しながら進む。徐々に円を大きくしていき、最終的に直線距離で約千メートル付近にある太陽光発電所までの安全を確保する。仕上げにゾンビがいなくなった地域にバリケードを構築すれば、作戦は完了。
避難場所の確立と安定した電力の確保、そして周辺のゾンビの一掃。その三つを同時に達成させるための、大事な作戦。
ゾンビで汚れてしまった街の
「一応聞いておく。お前達、本当に全員で行くのか?」
ゲートリーダーがさらに作戦について詳しく話している間に、虹枝さんは俺たちだけに聞こえるような声量で問いかけた。
「作戦決行は三日後だ。それまで考える時間はあると思うが」
「いえ、やらせてください」
虹枝さんの言葉に返事を返したのは、意外にも唯奈だった。唯奈はいつになく決意の籠った目で虹枝さんを見つめる。
「ヤタガラスと戦って力を認められたのはお兄ちゃんと双笑さんだけだし、実際にゾンビと直接戦えるのも二人だけ。でも私たちも、ただ安全な場所で待ってるだけなんて嫌です」
「皆で話し合って決めたんです。僕達にも出来る事はあるだろうって」
「今までも、みなさんと一緒に、ここまで来たんですから……!」
唯奈に続いて
虹枝さんは何かを言いかけるように口を開いたが、小さくかぶりを振って、ため息をついた。
「お前達に『外は危険だ』なんて言うのも今更か。ここにいる誰よりも、外の世界で生き抜いて来たのだからな」
微かに微笑みを湛えて、虹枝さんは俺たちを見回した。その眼差しからは、スターゲートの子供たちに向けている優しさのような色を感じられた。
「お前達は、誰よりも強い子供たちだ」
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