第11話 異能力の可能性と限界
あの後すぐに『
スタッフ用の休憩室を
さすがにコンビニの倉庫に布団や毛布はなかったので、店中の比較的綺麗な布をかき集め、三人分の寝床を完成させた。
ちなみに俺の能力でも布団を作ろうとしたが出来なかった。もしかしたらあまり大きすぎる物は生み出せないのかもしれない。
「このサバの缶詰、冷めてても美味い!!」
「お兄ちゃん、それサンマ」
そして寝床を簡単に掃除していたらすっかり日が暮れたので、三人で軽く晩飯をとる事にした。地図に記された目的地までどれくらいかかるか分からないので、そんなにたくさんは食べれないけど。
「二人ともありがとう! 食料も分けてもらっちゃって」
「気にしないでください。食料調達なんて能力を持った今のお兄ちゃんになら何度でも行かせられますから」
「全部俺に丸投げかよ! いやまあ、なくなったら行くけどさぁ」
このコンビニには食べれそうな食料はほとんど無く、また翠川は持ち歩いてるスポーツバッグにも食料は入っていなかった。聞けば翠川も今日家を出たばかりのようで、その時は急いでいて何も持ってこれなかったそうだ。
俺たちの方には父さん達が用意してくれていたリュックに携行食は入ってるし、もう一つのリュックにも持てる分だけ詰め込んだからすぐに無くなったりはしない。
「それで、翠川はどこか目的地でもあったりするのか?」
「双笑でいいよ。
「そうなのか……? じゃあ、双笑で」
「うん! 目的地は……特に決めてなかったね。食べ物がありそうな場所を一つずつまわってく予定だったよ」
「何と言うか、途方もない旅じゃないか、それ?」
「そうなんだよね。でもどこに行けばいいか分からないし」
彼女の判断はいたって普通なのだろう。最初から地図に目的地らしきマークが記されていた俺達が特別なだけで、普通ならどこへ行くべきかも分からず混乱する事だろう。そう思ったら、ますます父さんと母さんには助けられてたんだな。
「勇人くんと唯奈ちゃんは? どこか行く予定とかあるの?」
「ああ、俺たちはな……」
俺は持って来た地図を広げ、双笑にも目的地の事を伝えた。話の成り行き上、父さんと母さんがこのパンデミックを予知していた可能性についても少し話した。俺の中では有力とはいえ可能性の域を出ないこの情報だが、特に秘密にするような事でもないと思ったからだ。
おそらくごく一部の人間の間だとは思うが、このおぞましい現状が『予想されていた事態』だとしたら、きっとその『対抗策』も準備されているのかもしれない。そんな淡い期待を確かめるために、俺たちは地図に記された謎の場所へ向かっている。まだ全然進んでないけど。
「何かすごいね、それ。勇人くんと唯奈ちゃんのご両親って何者なんだろ」
「さぁ……? 俺だって今まで、父さんと母さんは研究職に就いてた普通の社会人だと思ってたけどなぁ」
「私から見たらむしろぱっとしない平凡な家族だったけど。人は見た目によらない、って事なのかな」
唯奈の言い方はちょっと手厳しいが、確かにありふれた平和な家族だったと俺も思う。パンデミックのずっと前に研究所の火災でどっちも死んじゃったけど、家事もろもろの生きる術は教えてもらってたおかげで唯奈と共に暮らせていたのだ。
きっと俺たちみたいな普通の日常がこの世界にはあふれていたのだろう。それも皆、ゾンビのせいでぐちゃぐちゃだ。
「ねえ! 二人にちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
「ん、どした?」
「夕ご飯足りなかったらチョコバー一本くらいはおかわりいいですよ」
「ありがと、それは貰うね。でもそうじゃないの」
唯奈から受け取ったチョコバーをひと口かじって、双笑は続けた。
「私も二人と一緒に行きたいの。連れてってくれないかな」
* * *
地上がどれだけ騒ごうと夜空が濁る事は無い。俺たちが死の際でサバイバルを続けていようがいまいが、普通に月は昇るし、星々は輝いている。
ぼーっと夜空を見上げていると、不思議と感傷的になっちゃうな。
俺はカウンターにもたれかかり、扉が粉砕されたコンビニの入口から夜空を眺めていた。店内の照明は当然点いておらず、部屋は月明かりだけが照らしている。
満月じゃなくても月明かりは明るいもんだな。悲しいぐらいに街の灯りがない分、それを強く感じる。
「……意外と退屈だ」
三人で夕飯を食べた後、しばらくして眠る事にした。しかし、ここは昨日まで暮らしていた安全な家ではなく、扉も窓も壊れて出入りし放題のコンビニ。ゾンビが夜中にどう活動しているのかは見た事も無いが、動きを止めるとは考えにくい。つまり、ぐっすり眠るには安心できる場所とは言えないのだ。
ここまでくれば、夜空を眺める趣味がある訳でもない俺がなぜ夜中に起きているか分かるだろう。
そう、見張りだ。ゾンビが襲って来たりした際に迅速に対処するために出入口を見張っているのだ。
取りあえず最初に三時間ほど俺が見張りをして、その後双笑と唯奈ペアに交代、そして最後にまた俺が担当する予定だ。唯奈や双笑は何時間も見張りした後で出発するのはキツイだろうし、俺は能力に目覚めてから体の調子が良く眠気も襲って来ないので二回すると進言した。
体力や筋力がついていたり、対ゾンビ戦闘でも的確に対処できる動体視力だったり、異能力と一緒にいろんなオマケが付いて来た気がする。今も普段なら寝てる時刻なのにバッチリ起きてられるし。
今日で何度も感じた違和感だが、まあサバイバルでは助かるし何の問題も無いけどな。
「むしろ知りたい事と言えば、
俺は右手を見つめたまま異能力を発動し、その手に本で見た片手拳銃を生み出した。もちろん実物は見た事ないが、見た感じそっくりだ。拳銃は一旦レジカウンターに置き、他にもいろいろ生み出してみる。サバイバルナイフ、バール、クロスボウ、武器になるものは見た目と機能を何となく把握していれば大体生み出せるようだ。
次に文房具、目覚まし時計、スマートフォンなど日用品を生み出そうとしてみた。結果は不発。能力は発動せず、何も生み出せなかった。これは推測だが、俺の能力は俺が『武器』と認識している物品しか生み出せないのだろう。そうなれば布団や食料を生み出せなかったのも合点がいく。
何度も思った事だが、異能力とて万能ではないらしい。
「……せっかくだしいろいろ試してみるか」
俺は自分の異能力について無知すぎる。今日目覚めたばかりなんだし全て知ってるわけもないけどな。
だからこそ、現在進行形で頼りまくってるこの能力についてはしっかり知るべきだろう。
俺はコンビニを出て、広い駐車場を見渡した。道路を挟んだ向かいの炎上する車はすでに鎮火したので光源にはなり得ず、さえぎる物のない月の光が地上を照らしている。人影もゾンビの姿もナシ。ここがちょうどいいだろう。
「じゃあまずは……」
俺は駐車場の一画を見つめ、そこに両手をかざす。映画とかで見る機銃をそなえた車や戦車などをイメージし続けた。
が、やはり何も出てこない。武器とは呼べないものの戦闘に使えるものならどうかと思ったが、大きすぎるのはムリらしい。
それじゃあ次に、『引き金を引くと近くにいるゾンビを自動追尾して爆破する拳銃』なるモノをイメージしてみた。自分でも思うがずいぶん滅茶苦茶な代物だ。
「……まあ出ないわな」
イメージの具体性に欠けるし、『そんなものはないだろ』と俺が心のどこかで思ってるからだろうか。とにかく想像だけのデタラメな兵器も駄目なようだ。
まとめると。
俺の能力で生み出せるのは現実に存在していてかつ、携行できる程度の大きさの『武器』に限られる。
「思ってた以上に、限定的な能力だな……」
まあ、あるのとないのとでは天地の差だろうし、文句なんて無い。強化された身体能力を駆使して戦闘に徹すれば役に立てるはずだ。
あまり長く外にいたらゾンビに見つかっちゃうかもしれないから、一通り能力を使う練習を行ったらコンビニの中へと戻った。自分の異能力については少し理解できた。もしかしたら、まだどこかに俺の知らない可能性が眠っていたりするかもしれないけど、今の所はどれだけ使えるかが分かれば十分だろう。
そして、考え事をしたりしながら見張りを続けてはや三時間。あっという間に交代すると決めていた時間だ。俺はレジカウンターにいくつか武器を置いて、唯奈と双笑が寝ている休憩室の扉を軽くノックした。
……返事がない。
もう一度ノックしてみた。またも応答はない。
「まだ寝てるのか?」
扉を開けようとドアノブに手を当てて、やっぱり手を放した。二人はまだ寝かせておこう。
唯奈は今日まで、俺と共に一か月ほどゾンビの世界を生き延びた。一か月だ。ここまで来ると体のどこかでは慣れてしまうはずだ。
そして少しずつ生き延びる算段がついてきた所で、いきなり家を離れる事になってしまった。今までとの差もあり、今日はいつも以上に気を張っていた事だろう。
そしてきっと、双笑も。
隻夢がいるとはいえ、彼女はひとりで今日まで生きて来たはずだ。本当のところは彼女にしか分からないけど、双笑は俺や唯奈を信用してくれているみたいだし、今はその唯奈と二人で寝ている。少しは気を休めてくれたらいいが、三時間の睡眠じゃ足りないだろう。
とにかく、俺がそんな二人の眠りを無理に覚ます理由はない。俺はまだまだ見張りも出来るし、交代はもうちょっと先でいいだろう。
できるだけ音を立てないよう気を付けながら、俺は静かにその場を離れた。
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