第41話 本願寺法主
「このノブナガっていうプレイヤームカつくな。本物の織田信長もイラつくけど今はこのノブナガだ」
全くどいつもこいつもバカばっかりだ。このゲームにおいて圧倒的に有利なのは俺たち僧兵なんだ。
本能寺と延暦寺は治外法権っていう特権が与えられてる。
何が大名だよ。こっちは神だっての。
大名たちは俺たちの本拠地には攻め込めない。寺を攻めれば重いペナルティが課せられるからな。
「よっくん、朝ご飯ここに置いとくわね。それで今日は学校どうするの?」
ちっ!行くわけねーだろ。
「いいから飯おいてどっか行けよ!!!」
「ご、ごめんなさい。じゃあ食べ終わったら食器は外に出しておいてね」
「わかってるよ!うるせーな!」
はぁ、バカと話すのは疲れる。
高校だってバカしかいない。バカのくせに自分は頭がいいと勘違いしている。
バカは人の心がわからない。だからデリカシーのないことを平気で言ってくるのだ。
俺は心が広いから我慢してやっていたのに、調子に乗ってエスカレートしていく。手に負えないバカ共だ。あんな連中と一緒にいる時間は頭の良い俺にとっては毒でしかない。
そして今俺は『信長の覇道』のバイトでその辺の社会人並みの金を稼いでいる。これこそ俺が有能である証明だ。
学校も人付き合いも俺には必要ない。このゲームの中で俺はまさに神なのだ。
今日も朝からログインする。
今日もノブナガ軍が勢力を広げようとしていた。ちっ!目障りだな。そろそろ身の程を知らないバカに天誅でも下してやるか。
「法主様、お呼びでしょうか?」
呼べばすぐ来る。
当たり前だ俺は本願寺のトップ法主なのだから。
「今ノブナガ軍はどこと争っている?」
「の、ノブナガ軍ですか?確か今は北条家と戦を始めようとしているとか」
「北条か。では北条に本願寺から援軍を送れ」
「援軍ですか!?」
「加賀の本願寺に指令を出せ」
そう、これが宗教勢力の特権の二つ目。宗教勢力とはいたる所にあるのだ。自分の周りにしか兵がいない大名とは違う。本願寺の力はすでに日ノ本全土に広がっているのだ。
つまり言ってしまえば俺はゲーム開始時からすでに天下を取ってしまっているようなものなのだ。
大名ごときが調子に乗るとどうなるか神が身の程を分からせてやる。
「しかし北条家を援護するのにはどのような理由が!?」
ちっ!こいつもいちいちうるさいな。黙って俺の言う通りにしておけばいいのに。
「、、、ノブナガは天にあだなす魔王である。我らが神はノブナガの死を望んでいる。これは天命である」
「な、なんと!天からの!!!それでは早速加賀に向けて早馬を走らせます!!!」
神の一声と言えば僧兵たちは命を捨てて戦場に行く。簡単すぎて笑えて来る。
大名たちとはこの時点でも圧倒的な差があるのだ。
まあ神なんか信じてる僧たちも所詮バカの集まり、神のためと思いながら俺のために死んでくればいい。
兵隊なんて腐るほどいるんだ。何度だって戦える。さあどうする?ノブナガぁ。
ひゃひゃひゃひゃひゃ!!!
*
ノブナガは不機嫌そうに座りながら幹部たちを集めていた。
「生臭坊主どもが空気も読まずに武士の戦に首を突っ込んできた」
北条家との戦いは正直うまくいっていなかった。
理由は北条家の援軍として押し寄せて来た加賀本願寺の僧兵たちである。
ノブナガが不機嫌な理由は二つ。単純に宗教が嫌いなこと。そして僧兵たちの本拠地である寺には攻め込まないこと。治外法権である寺に攻め込めば民衆たちからの支持が大幅に下がるのだ。
民衆の支持が下がり過ぎれば一揆が起こることさえある。
だからこそノブナガは自国の発展に力を注ぎ、民衆からの支持を集めて来たのだ。
だがせっかく高めた支持も寺に攻め込めば地に落ちる。
だが放っておけば僧兵たちに好き勝手されてしまう。
マジノブナガどうするの!?と思ってたけど、ノブナガの答えは決まっていた。
「せっかくここまで上げた支持率が一気に下がるのは痛いし、イラつくが、それでも野放しにしておけば調子に乗る。その方がおいしくない。だからここで本願寺に攻め込む。本能寺を消してこい。潰すんじゃない消すんだ。一人残らず殺せ。皆殺しだ」
ノブナガの宣言に家臣たちも息を飲んでいた。笑っていたのはプレーヤーであるパプル、大名から配下になった上杉謙信、そして―
「はははは!そいつは面白そうだ!俺にやらせてくれよ、大将」
ついこの間ノブナガの配下に加わった真田幸村である。
「楽しそうだな。幸村」
「自分たちは特権階級だと思って調子に乗ってるバカ共に本当の戦を教えてやれるんだろ?こんな楽しそうな事はないぜ」
「気が合うじゃねぇか」
「全くだ。だから早く命令してくれよ、大将」
「いいだろう。お前がやってこい。その代わり一人も逃がすなよ。皆殺しだ。目障りだから寺も全部焼け。更地にして来い」
「なるほど。本当に消すわけだ」
「更地になったら俺の魔王増でも立ててやる。だから容赦するなよ」
「わかってるって。だから多めに兵をくれると助かるぜ。というか式神をつけて欲しいかな」
「もちろんだ。ランもつけてやる」
「了解」
幸村はノブナガに負けた後、あっさりノブナガの家臣となって復活した。その方が楽しそうだからだそうだ。
武田信玄は殺されたと同時にノブナガも意識を失ってしまったのでタイミング的に完全な復活は無理だったらしく、中身のなくなった状態で蘇らされ家臣になった。
だから今では逆に武田信玄は真田幸村の配下となっている。幸村軍の特攻隊長である。
そして今私は幸村軍と一緒に加賀本願寺の近くに来ている。時間は深夜。僧たちは寝静まっている時間帯だ。
『寝込みを襲おう。その方が僧兵たちの驚いた顔が見られる』
幸村が楽しそうに発案し、今こんな感じである。
「俺の足を引っ張るなよ、陰陽師」
「ムカッ!そっちこそ足引っ張んないでよね!てかノブナガ軍では私の方が先輩なんだから敬語使いなよ!そして敬いなよ!」
「自分で『ムカッ!』とかいうような奴を敬う気はないな」
「ムキー!ノブナガに負けたくせに生意気!!!」
「自分で『ムキー!』って言ってる奴には絶対敬語は使いたくないな。それにお前が言った通り俺が負けたのはノブナガだ。お前じゃない」
「私の式神たちに思いっきり苦しめられてたじゃん!!!」
「というか本当にお前の式神なのか?ノブナガの命令で動いているように見えたが?」
「うぐっ!」
くそっ!こいつなんか鋭い。
「やっぱ自分で『うぐっ!』とか言っちゃう奴に敬意を払うのは無理だな」
「くっ!もういいよ!別にあんたなんかに敬われなくたってどうでもいいんだから!私はノブナガに深く愛されてるからそれで十分だもん!!!」
「あ、そう。じゃあさっさと加賀本願寺を焼き尽くすぞ」
こいつさらっとスルーしやがった。マジで生意気。
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