第15話 ノブナガと天羽々斬、そして天下取りへ

マカミちゃんとコロポックルズは一流企業かよってぐらいの入念な打ち合わせをしていた。


よっぽどノブナガが怖いんだろう。


そして翌日、海底へと続く立派な氷の階段が出来上がっていた。


「さすがだな。上出来だ」


『『『あざーす!!!』』』


「たんまりと褒美をくれてやる」


これがノブナガなのだ。私はマニアだからよく知ってる。


ノブナガは部下に厳しいが、その分手柄を上げたら大きな褒美を出す。どの戦国大名よりも遥かに大きな。


ノブナガは完全なる実力主義者。そこには人柄も身分も関係ない。それこそ敵か味方かさえも。


「さて、行くぞ」


「おう!」


「ウヌも行くの!」


「ノブナガ、俺はここに残るぞ。マカが消耗し過ぎている。一人にはしておけない」


「構わない」


タライとマカミちゃんを地上に残し私たちは海底に向けて階段を下りていく。


ちなみにコロポックルズも力を使い果たしたようで、私の中で眠っている。


というわけで海底に向かうのはノブナガ、私、ウヌカル、トリの4人だ。


氷の階段はなんなら滑り止めまでついてて、めちゃめちゃ歩きやすかった。どんだけ頑張ったのよ。というかどんだけノブナガが怖かったのよ。


「うわーなにこれ。すご!」


海底には美しい石造りの神社が建っていた。


「綺麗すぎて気持ち悪いな。人が作れるもんじゃない。やっぱりこのゲームには神も存在するのか?」


「まあ妖怪もいるしね」


「妖怪は別にいいんだよ。ただ神って奴だけはいけ好かない」


「なんでそんなに神が嫌いなの?」


ノブナガの神嫌いは有名だ。ちょっとその理由を聞いてみたかった。


「絶対的な正しさをバラまくクソ野郎だからだ。簡単に人から考えることを奪い、バカにする」


「な、なるほど」


ちょっと難しい。本当は全くわかっていない。


「あと俺より偉い奴は許せない」


「あ!そういうのそういうの!ノブナガっぽいし分かりやすい!」


「ノブナガっぽいってなんだよ」


「でも本当に神が出てきたらどうするの?やばくない?」


「それなら好都合だ。いつか殺してやろうと思ってた」


「え!?マジ!?ノブナガ、神社の前でよくそんなこと言えるね。さすがだわ」


「さっさと天羽々斬取りに行くぞ」


「大嫌いな神が作った刀っぽいけどいいの?」


「はぁ!?使えるもんなら敵の物だって使うに決まってんだろ。それに自分のもので倒されるなんてより屈辱的なはずだ。胸が躍るぜ」


「うわ!ノブナガ性格わる!」


「性格のいい奴が天下なんて取ろうとするかよ」


「なるほど」


私たちはそのまま社の中に入っていく。


確かにノブナガの言う通りこれは人が造れるものじゃないや。つなぎ目も重ねた跡もなにもない。つまりこの社自体が一つの石で作られている。


岩を加工した形跡がないのだ。そう、初めから美しい社の形をした岩をここに置いたといった感じだ。まあゲームだしね。でもわざとそうしてるようなので何か意味があるのかもしれない。


中には妖怪の類や門番もいなく、まっすぐ本殿まで行けた。


そしてそこには純白の鞘に納められた美しい刀が置かれていた。


「これが天羽々斬か。簡単に手に入ったな」


バチン!


ノブナガが刀に触ろうとすると突然弾かれた。


「大丈夫!?ノブナガ!?」


「まあこのまま手に入れられたら簡単すぎるしな。むしろこのまま手に入れられたならその力を疑うところだった」


うん?ノブナガ強がってんじゃね?



天羽々斬


種族 剣精



え?種族あんの?刀じゃないの?



「この刀生きてるな」


「だよね!でも刀が生きてるってどゆこと?」


「まあ神が作ったんならあり得ない話でもないだろ。連中は命を生み出すんだから。ああ忌々しい」


「じゃあどうするの?」


「逆にシステムとかじゃなくて生き物なら簡単だ。屈服させればいい」


『人間よ。我の質問に答えよ』


突然天羽々斬が話し出す。


「え、今のって刀がしゃべったの?」


「だろうな」


「この刀キモいの!」


『貴様が望むものは何だ?』


私たちの言葉をスルーして天羽々斬は話を続ける。


「はぁ?天下だが」


『天下を望む理由は?』


「欲しいからだ」


『欲しいという理由だけで殺し合いをするのか?』


「それが人間だ」


『愚かな』


「愚かなのが人間だ」


『やはり人は神に成れんか』


「なるかよ。そんなもの。なぜ神が人より上等だと決めつける?神なんてただのシステムだ。そこに感情なんか存在しない。AIと同じだ。それならもう人間が作ったぞ。滑稽だな。自分で作ったものに自分を作られるんだからな」


『それは創造主に対する冒とくだぞ!』


「なに言ってんだ。子は親を超えていくもんだろ」


『、、、なんだと』


「もういいか?めんどくさい問答にも飽きた。どうせ話し合ったところで俺の物になる気はないんだろ。それなら力尽くで屈服させる。それが一番楽だ」


ノブナガの雰囲気が変わった。やる気だ。この人、刀相手に本気出すつもりだ。


「ノブナガやる気だから離れるよ!ウヌちゃん!」


「ノブナガは刀相手でも容赦ないの!」


『待て。我は貴様から感情というものを学ぶことにした。今この時をもって神のシステムから外れる』


「どうしたんだ?いきなり」


『我は神のシステムから外れ人間の所有物になることを決める権利が与えられている。それをここで行使する』


「いいのか?そんなに簡単に決めて」


『さっきの問答は悪くなかった。それに貴様を逃せば次にここに来る人間は何百年後になるかわからない。さすがにそれはロスだ』


「まあ後悔しないならいいけどな」


『後悔などするのは人間だけだ』


「それもそうか。じゃあついて来い」


『今この瞬間、我『天羽々斬』は傾奇者ノブナガの配下に下る』


「その忠誠、受け取るよ」


ノブナガはそのまま天羽々斬を台座から取って腰に差す。


今度は何の抵抗もなかった。天羽々斬は完全にノブナガを主として認めたのだろう。


『主よ、我を振れ』


「え?」


『旅立ちの時だ。こんな神が作ったとしか思えない気味の悪い神社など消し去ってしまえ』


「それもそうだな」


そう言ってノブナガが天羽々斬を鞘から抜く。眩しすぎて見ることもできないほどに輝く剣だった。そしてノブナガは天羽々斬を振り抜く。


その瞬間神社は真っ二つになる。と同時に崩れ落ちていき全て砂になって行った。


「真っ二つにしたのも凄かったけどなんで砂になっちゃったの!?」


『我は今この建物だけでなく、この建物を成り立たせていた神の力も断ったからだ』


天羽々斬は結構ちゃんと質問に答えてくれた。


「さすがだな。ハバキリ」


『なんだ?その呼び方』


「アマノハバキリって長くて言いにくいんだよ」


『うむ。いいな、その呼び方』


「ならよかったよ。じゃあ行こう」


こうして天羽々斬を手に入れた私たちはタライとマカミちゃん、コロポックルズと海の上で無事合流する。


今回は私もウヌちゃんも全く役に立たなかったな。着いて行った意味あったんだろうか。


まあいいか。最も役に立たなかったのはトリだから。


『おい、今失礼なこと思ってなかったか?』


ちっ!役に立たなかったくせに勘だけはいいな。


「思ってないよ、筆頭役立たず」


『はぁ!?今なんて言いやがった!?』


「別に~、なんでも~」


『、、、ちっ!まあ、、、いい』


あれ?意外とあっさりと引いたな。あ、これってトリも自分が役立たずだったことがわかってるのかな~。


ふふふ。愚かなり。トリ。


『イラっ!』


なにかトリの怒りが伝わってきたが、こやつにはもう何も出来まい。


新入りのコロポックルズが活躍したのに自分の見せ場がなくてバツが悪いんだろう。くっくっく。


こうして私たちはアイヌの里(函館のところ)に向けて出発した。


うん、早く帰らないとね。本州に乗り込まないといけないんだから。



長い長い道のりを乗り越えてやっと帰ってきました。アイヌの里。


丸一年留守にしてたからかなり懐かしい。


うん、まあそうでもないか。ゲームだし、そこまで思い入れも育ってなかったし。


だが港には巨大な帆船が完成していた。そう、アイヌたちはしっかりと働いてくれたのだ。


それを見たノブナガは楽しそうに笑った。


「よし、準備は整った。さあ天下を取りに行こうか」


ここから本当の天下取りが始まる。

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