その5
落ちた先は、赤チームのサンとツキのトラップだった。
二人は、青チームの僕とサクラを落とし穴に誘い込んで、戦いを挑んだ。
僕たちは、サンとツキをリタイアさせる代償に、サクラを失った。
僕も後1回のダメージでリタイアだ。
「階層(レイヤー)バトル」の残り時間は5分。赤チームもいない。僕と、青チームの二人だけのバトル。後5分間、僕は打たれないように耐えて、最終ステージに進まないと。
秀君のペイントは、あと1回残っているかどうか…。僕はゆっくりと息を吸い込んで、壁の後ろに身をひそめていた。
「さて…。残りは君一人か…。結構しぶといんだね。」
僕は、できるだけ声を出さないように息を殺していた。僕のペイントはあるけど、今物陰から秀君を打ったら確実に打たれてしまう。だから、あと数分は時間が切れるのを待つ方が賢明だ。
「僕に一回でもダメージを与えたのは、君が初めてなんだ。君、面白いから正々堂々と戦おうよ。」
みつばの僕を探し回る足音が聞こえる。これ以上一歩も動けない。
「みつばの方は、君を見つけたみたいだよ。」
「みーつけた。こんなとこにいたのね!」
テーブルの下に隠れていた僕を、みつばがのぞき込んで指をさす。今、僕に残された道は?ゲーム時間は、残り3分だ。秀君が近づいてくる音が聞こえる。
「ふーん…。テーブルの下…。」
このまま何もしないで負けるよりはマシだ。僕は、テーブルの下から飛び出して、階段を下り始めた。なんとか、6階まで…。このまま、階段を降り続ければ、なんとか逃げ切れるかもしれない。慌てる僕とは正反対に、秀君がゆっくり階段を下りてくる。
「逃げないで、正々堂々と戦おうよ。」
「僕は君と一緒に最終ステージに進むんだ!サクラの為にも、君を、みんなを人間の世界(ぼくら せかい)に連れて帰るためにも!」
「なにそれ…。まあ、いいや。もう遊びも飽きたから、僕本気になるね。」
そう言うと、階段を駆け下りる僕をはっきりと視界に入れた秀君が、何階も上からシューターを僕に向けた。鋭い目。一切ぶれない腕が、僕の動きを捉えた。
打たれる。
僕はそう確信して、目を瞑った。
パシュッ!
ペイントが、秀君のシューターから放たれた。そのペイントは、僕の頭めがけて…。もうこれでおしまいか。そう思ったその時、何かが僕の頭の上を素早く通った。
今のは…ん、あれ?
体のどこにもペイントを感じない。僕が感じていたのは、誰かの息遣いと体温だ。
「真琴さん。」
人間の声?僕がうっすらと目を開けると、見覚えのある赤いスカーフが見える。
「…君は、レイブン…?」
「いえ、私はレイブンではありません。赤チームのサポーター、ワタリガラスのミレイです。レイブン様から、真琴様を守るようにと使命を預かっております。」
ミレイ、というそのサポーターは、秀君の攻撃から、一瞬の判断で僕を守ってくれた。僕は驚きで、うまく言葉が出てこない。
「あの、僕を守ってくれてありがとう…。でも、レイブンからの使命って…?レイブンは、無事なの?」
「レイブン様は、あの時ステージ3に転送されました。私は、ステージ3の住人で、レイブン様のいらっしゃる場所から、直接伝言を預かりました。」
「レイブンはステージ3に行ったの?君は、レイブンとどういう関係なの?」
「私は、レイブン様の古くからの知り合いです。」
「古くからの知り合い…。」
「今はとにかくこのステージをクリアされて、ステージ3で私を探してください。話はそれからです。」
ミレイがそう言ったので、僕は急いでスマートウォッチを確認した。
「階層(レイヤー)バトル」の残り時間、3秒、2秒、1秒…。
ゼロ。ゲーム終了のアナウンスが、建物に響き渡る。
「おめでとう。まさか、僕以外のプレイヤーが生き残るなんてね。」
上から、秀君の声がする。
「緑チームのサポーターを仲間につけて、赤チームに守られた…。君、やるね。」
「ほんとおー。」、と女の子の声がする。隣にみつばがいるみたいだ。
「あの子、サポーターと話してたー。ほんと変わってるねー。」
「ま、いいや。最終ステージ、僕以外で到達したの、誰もいないんだ。せいぜい楽しもうよ。」
僕が顔を上げると、秀君はいつの間にかいなくなっていた。最終ステージは、このビルの屋上だ。僕はそこで秀君と一緒に戦う。でも、メドやリタイアしたみんなのことが気がかりで、僕は、ミレイにメドの居場所を尋ねた。
「青チームのサポーター、メドさんには会った?」
「メド様は、今リタイアしたメンバーの子供の面倒を見ていらっしゃいます。あの方は、真琴さんが子供たちを「人間の世界(ぼくら せかい)」に帰すと信じていらっしゃいます。」
「安心した。みんなを放っておけないなんて、メドさんらしいね。」
「私は、メド様と合流してから、屋上に向かいます。」
僕は力強く頷くと、ミレイといったん別れた。突然現れたワタリガラスの女の子、ミレイ。それに、レイブンがステージ3に?心配なことだらけだけど、
今は、クリアを目指さないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます